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第26話

「ふむ…熱はないし。ただの寝不足だな。暫く寝かせておけば目も覚めるだろ」 「そうですか」 保険医の先生の言葉に、俺も久瀬川先輩もほっと安堵の息を零す。 また熱を出して倒れたのかと心配していたから。 日比谷先輩、体が少し弱いって言っていたのをすっかり忘れていた。 でも、寝不足ってことはいろいろと考えて眠れなかったんだろうか、平気そうにしていてもやっぱり先輩も悩んでいたのかもしれない。 眠っている日比谷先輩を見つめる久瀬川先輩の瞳はとても優しくて、本当に日比谷先輩の事が好きなんだなと確信できた。 「ん……あれ…?」 暫くすると、日比谷先輩がゆっくりと目を覚ます。 「優里。目を覚ましたか」 「圭…?…高松君も…」 「先輩、倒れたんで保健室に運んできたんです。でも、ただの寝不足だって先生は言ってました」 「寝不足…そっか…最近あまりよく眠ってなかったからな…」 色々考えてたから、と付け足した後、日比谷先輩は一度目を閉じてからゆっくりと再び目を開ける。 そして、久瀬川先輩の方へと視線を向けた。 「…圭、僕は…圭の気持ちは嬉しいけれど、でも、御免。やっぱり、圭達の元へは戻れないよ。あそこじゃあ、もう僕らしくはいられないんだ。だから、圭の側にいる事は出来ない…」 「それは、俺の気持ちは迷惑ではないという事か?」 「…うん」 「分かった。それならいい。優里は、優里らしくいられる場所にいればいい。俺は優里に作りものじゃない笑顔でいて欲しい」 「…うん。御免ね…」 「謝る必要はないだろう?優里は優里の居たい場所にいればいい、けれど俺が優里に側にいて欲しい気持ちは何も変わっていない。それを諦めるつもりもない」 「え…?」 「優里が俺達の中に入ることが苦痛なら、俺が優里の側にいけばいい。それだけのことだ」 「ええっ?」 軽く声を上げる日比谷先輩の腕を両手で掴んで、久瀬川先輩はにっこりと微笑む。 「俺の気持ちが迷惑ではないと言われているのに、俺がはい、そうですか。と諦める性格では ないのはお前が一番よく知っているはずだろう?」 「そ、それはそうだけれど…でも、皆のところから離れるってことだよ!?」 「別に元々四六時中べったりしていたわけじゃないからな。あいつらとは一緒にいなくても仲は何も変わらない。俺が優里に惚れていることはあいつらも知っていることだし、想いがかなったから側にいたいと言えば喜んで祝福してくれる」 「で、でも!僕の方の皆がなんていうか分からないしっ…!」 戸惑ったように言う日比谷先輩の言葉に、それってもしかしなくても俺達の事だよなと思った俺は口を開く。 「俺達なら全然歓迎しますよ?皆も喜ぶと思いますし」 「た、高松君…!!」 慌てる日比谷先輩の姿を見つつ、今までのやり取りを見ていて、やっぱり日比谷先輩の運命の恋の相手は久瀬川先輩だと思ったから、そっと耳元で囁くように告げた。 「先輩、約束しましたよね?運命の恋の為に頑張るって。今が頑張り時じゃないんですか?」 俺の言葉に日比谷先輩ははっと目を見開くと、しばらくの間考え込む様子を見せていたけれどやがて溜息をついたかと思うと微かに赤い顔で久瀬川先輩を睨むように見た。 「…言っておくけど、僕皆といた時みたいな可愛い性格じゃないからね?それを知ってやっぱり桜木君の方がいいって言っても離してあげないから」 「ああ、それでいい。という事は、俺と付き合ってくれるという事でいいんだな?」 確認する久瀬川先輩から日比谷先輩は赤くなった顔のまま視線を逸らすと。 「…まあ、いいよ」 小さく頷いた。 「優里っ!」 「うわっ、ちょっと、圭!苦しいって!」 「おめでとうございます!日比谷先輩、久瀬川先輩!」 喜びの余りがばりっと日比谷先輩を抱きしめる久瀬川先輩に恥ずかしそうに抗議する日比谷先輩。 そんな二人の姿を見て俺は心の底から祝福する。 また新しいカップルの誕生は、俺としてはとてもとても喜ばしいことだ。 これで近くで生BLを見られるカップルが二組になったことだし、とても嬉しい。 なんて祝福モードで盛り上がっている外で。 「おーい、お前ら。そう言うのは他所でやれー?」 と呆れたような保険医の先生の声が聞こえてきて、漸くここが保健室だったことに気が付いたのだけれど。

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