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第28話

その日の放課後。 俺が帰る用意をしていると隆一が声をかけてきた。 「悠斗!一緒に寮まで帰らねぇ?」 「あれ?隆一、サッカー部は?」 「今日は顧問の都合で休みになったんだよ。折角だし一緒に帰ろうぜ」 「ああ」 そう言う事ならと頷いて、俺は隆一と一緒に昇降口へと向かう。 「あ、寮に帰る前にコンビニ寄って帰っていいか?」 「ああ。別に構わないぞ」 隆一の言葉に返事を返しながら、俺は下駄箱の中から靴を取り出して、ん?と違和感を覚える。 「あれ?」 「ん?どうした?」 「いや、靴がなんか重いなって思って…」 中に何か入っているのかと靴を裏返した瞬間、ジャラジャラと音を立てて靴の中から出て来たのは。 「なっ…んだよ、これ…?」 驚いた隆一の視線の先には床に落ちた大量の画びょうだった。 もしかして、ともう一足も手に持ってみるとずっしりと重く同じように画びょうが詰め込まれていた。 「うわー、なんて言うか古典的な嫌がらせだなぁ」 「って、お前平気なのかよ?こんなことされて」 「まぁ、別に実害があるわけじゃないし?多分、矢谷先輩とか日比谷先輩や久瀬川先輩達のファンにやっかまれたのかもな」 靴の中にもう画びょうがないか確認して靴を履きつつ答える。 隆一や相羽みたいにイケメンだったり美青年だったりするならともかく俺みたいな平凡な奴が何で一緒にいるんだって思われているのかもしれない。 まぁ、だからってどうもしてやらないけれど。 というか、こんな古典的な嫌がらせをする奴が男子の中にもいるんだな。 なんて、そんなに深刻には考えていなかったんだけれど。 「お前強いな」 「まぁ、想定内の範囲だしさ」 「けど、あまり酷かったりしたら言えよ?」 「ああ、有り難う」 隆一に礼を言って昇降口を出る。 そのまま隆一と共に校門に歩こうとしたところで、ふと俺は視界の端によく見知ったものを見た気がして立ち止まる。 「悠斗?どうした?」 「いや、あの校舎の側に落ちてるの俺の財布に似てるなって」 「え?」 隆一に説明しながら鞄の中を確認すると、当然入っていると思っていた俺の財布が入っていなかった。 「ない。俺の財布がない!じゃあ、やっぱりあれが?ちょっと見てくる」 「あ、おい。悠斗!」 そう言って、俺は校舎の側まで走りだし、落ちていた財布らしきものを拾って確認する。 やっぱり、俺の財布だ。 一応中身を確認すると、入っている金額も俺の財布の中身と全く一緒で、誕生日に中学の友達からもらったキーホルダーもしっかりついていた。 「よかった。中身は取られてないみたいだけれど…なんでこんなところに?」 「悠斗。財布、見つかったのか?」 「あ、隆一。ああ、ここに落ちてた。けど、俺落としたつもりないのに何でこんなところに落ちてたんだろうな?」 「もしかして、それも嫌がらせの一種だったりして?」 「そうなのか?でも…」 と俺が言いかけた時だった。 隆一が大きく目を見開いて声を荒げる。 「避けろ!悠斗!!」 「え?」 声を上げたのも束の間、頭上から何かが落ちてくるのを瞬時に察すると同時に武道で慣れていた俺の体は素早く数歩後ろに下がる。 それは間一髪の事だった。 次の瞬間には、俺の居た場所に真上からすごい速度で何かが落ちてきて地面に激突しバラバラに割れる。 よく見ると、それは大きな植木鉢だった。 「悠斗、大丈夫か!?」 「あ、ああ。なんとか」 答えながら俺は、植木鉢を見つめる。 こんなものがもし俺に直撃していたら、大怪我では済まされなかったところだ。 隆一が気が付いて声をかけてくれなかったら本当に危なかった。 「植木鉢…!?誰がこんなものを?」 そう言って隆一は上を確認する。 それにつられて俺を頭上を見上げるけれど、どこの窓もしっかりとしまっていた。 これでは誰が落としたのかわからない。 でも、と俺は考える。 俺の財布は、いつの間にかここに落ちてて、俺が拾いに来たのと同時に落ちてきた植木鉢。 それはつまり、偶然じゃなくて俺がここに来るのを狙ってたという事か? まさかな、と苦笑しつつもその可能性がないわけじゃないと思うと、少し怖く感じた。 「なぁ、悠斗。今のって…」 隆一も何かに気が付いたらしく何か言いかけたけれど、俺はそれを遮るように俺は明るく声を上げる。 「本当間一髪だったよな!って言うか、この割れた植木鉢は片づけておかないと危ないよな」 「悠斗…けど…」 「大丈夫、大丈夫。ただの偶然だって」 言いながら俺は植木鉢の欠片を片付け始める。 何か言いたげな様子だった隆一も一緒に片づけてくれてそれ以上は口にしなかった。 その日はそれ以上何事もなく、無事寮に帰れたんだけれど。 隆一には、このことは他の皆には黙っていて欲しいと頼んでおいた。 ただの事故かもしれないのに、余計なことを言って心配かけたくはなかったから。 隆一は最初渋っていたけれど、俺が真剣に頼み込んだら納得して頷いてくれた。 寮に帰ってからは特に変わったこともなく、一日を過ごせたので俺はやっぱり気のせいだと思うようにしていたんだ。 けれど。 事件が起こったのは、次の月曜の朝だった。 俺はいつものように登校していた。 そして、もう少しで校門と言ったところでのんびりと歩いていた俺の耳に。 「危ないっ!!」 と叫ぶ声と同時にバイクの走行音が音が聞こえたかと思うと、ふわりっと香水の香りを感じたと思った瞬間にはものすごいスピードで走ってきたバイクが俺の隣すれすれを走ってきていた。 そして、え?と思った瞬間には、バイクに乗った人物に勢いよく体を横に押し付けるように押されて、次の瞬間、俺は溝に右脚を落としながら右肩と頭を壁に思いっきり打ち付けられていた。 「いっ…!?」 鈍い音共に頭と肩に激痛が走ったかと思うと、そのままクラリと眩暈を感じて蹲る。 その後耳にしたのは、バイクの走り去る音と。 「君!大丈夫か!?」 と誰かが駆け寄ってくる音と声。 けれど、それ以降の事は何も覚えていない、かけられた声に何と答えたのかも、ただ頭と肩とそれから右脚にひどい痛みを覚えて気が付けば俺の意識は遠のいて行っていた。 意識がなくなる直前、矢谷先輩の声を聞いた気がした。

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