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第29話

「高松君が大変な事になったって…!?」 そう言って、保健室に飛び込んだのは日比谷と久瀬川。 保健室には、すでに榊と相羽の姿が、それにベッドに横たわり額と足首に包帯を巻いた状態で目を閉じている高松とその姿をじっと見つめる矢谷の姿が見られた。 「日比谷先輩…久瀬川先輩も」 「高松君…いったいどうして、こんなことに…?」 「俺のクラスメートが丁度、その現場を目撃したらしいんですけれど…」 榊はそう言って、朝高松に起こったことを日比谷達に説明する。 「バイクに乗った男が…?」 「そいつが言うには明らかに悠斗の事狙ってたって…」 「そんな、どうして…?」 青くなる日比谷の言葉に、榊はギュッと拳を握りしめる。 やっぱり、この間の事は、偶然なんかじゃなかったんだと実感して。 あの時もやっぱり高松は狙われていたんだと。 あの時、ちゃんと犯人を突き止めておけば、こんな事にはならなかったのかもしれない。 そう思うと、大事に友達を守れなかった悔しさで唇を噛みしめる。 「隆一…?どうしたんだ?」 いち早く榊の様子に気が付いたのは相羽だった。 「……あの時、ちゃんと犯人を見つけていればこんな事には…」 「え?」 「榊君?」 悔し紛れに言葉を放つ榊の方を全員が見つめる。 そして、それまで黙っていた矢谷がゆっくりと口を開き。 「おい。何か知ってるんなら今すぐ話せ」 と地を這うような声で告げてくるのを聞いて、榊は頷く。 「実は、金曜日の放課後、一緒に帰ったんですけど、その時に」 そう言って、靴に画びょうか大量に入っていたこと、その後、高松の財布がいつの間にか盗まれていて、校舎の側に捨てられていたこと。 それに気が付いた高松が財布を拾ったのと同時にそこにめがけて植木鉢が上から落ちてきたこと。 「そんなことが…」 「悠斗は偶然だってことで済ませようとしたけれど、でも、中身も抜かれていない財布が捨てられてあった場所に悠斗が拾いに来た時に落ちてきたなんてやっぱり狙われてたとしか思えない。もし事故で落ちたんなら落とした奴が謝りに出て来てもいいはずだ。それもなかったってことは悪意があったとしか…」 「なんですぐに言わなかった?」 「悠斗が皆に心配はかけたくないから黙っててくれって…」 「馬鹿が」 「でも、それは確実に高松君が狙われてるよね。財布がそこに落とされていたこと自体からして怪しいよ。…圭」 「ああ、これはあいつらにも話しておいた方がいいな」 日比谷の言葉に久瀬川も真剣な表情で頷く。 そんな話をする間に、保険医がやってきてその場にいた全員に言った。 「一応、応急処置はしたが、意識も目覚めないし、頭から出血もしているからな。担任と話を付けてきた。このまま病院に連れて行く。お前達は教室に戻れ」 「なら俺も行く!」 瞬時に声を上げた矢谷に保険医は首を横に振る。 「矢谷。お前は授業があるだろ」 「けどっ…!」 「先生、僕達からもお願いします。矢谷を連れて行ってやってください。病状がどうなのかわからないと僕達も授業に集中できませんから」 「しかし、だな…」 「お願いします、先生!」 日比谷達に必死に告げられて、保険医は深く溜息をついた。 「分かった。じゃあ、付き添いとしてついてこい。他はちゃんと授業に戻れよ」 「はい!有り難うございます。矢谷、高松君の事頼んだよ?」 「ああ」 日比谷の言葉に矢谷は頷いて短く答えたのだった。

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