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第30話
「…なぁ。起きろよ…お前になんかあったら…俺は…」
なんだか長い長い夢を見ていた。
ふわふわして気持ちのいい夢を。
暖かい優しい手が、そっと俺の頭に触れてくれて。
その感覚がとても気持ちよくてまだ眠っていたい気持ちにもさせられる。
けれど、そろそろ起きなければ。
学校もあるし、やりたいことも見たいものも沢山ある。
というか俺、いつから寝てるんだっけ?
本当にそろそろ起きないと遅刻するかもしれない。
目を開けないと。
けれど、なんだかやたらと頭が重い。
瞼も重い。
目が明けづらい。
それに少しだけ体も重いような?
そう思いながらもなんとか重い瞼をゆっくりと開けると、そこは俺の寮の部屋、ではなくて真っ白い天井が映り、ゆっくりと視線を動かせるとそこは病室の部屋のようだった。
寝ているベッドも病院でよく見るベッドで。
あれ?俺、なんでこんなところに?
と思いながら、視線を下へとむけて驚きに目を見開く。
だって、俺の体の上に軽く横から覆いかぶさるようにして眠っていたのは。
「や、矢谷先輩…っ!?」
そう、矢谷先輩だったから。
一瞬、まだ夢でも見ているのかと思ったけれど、そうではないらしい。
まじまじと見てもやはり寝ているのは矢谷先輩で間違いなくて、俺はその寝顔をじっと見つめてしまう。
やっぱり綺麗な顔してるな、先輩。
まつ毛も長いし。
寝顔もすごく綺麗だ。
いつもは結構仏頂面でいるけれど寝ていると少し幼い感じもする。
黒髪もサラサラしてて綺麗だ。
そう思うと、無性に髪に触れたくなる。
触ってみたいな。
触っても今なら怒られないだろうか。
そう思って、俺は身を起こすと左手をそっと伸ばしてその髪に触れようとした。
その直前。
「ん…」
と、矢谷先輩が声を上げて身じろいだのを見て、俺はびくうっと身を跳ね上がらせる。
瞬間、右腕に激痛を感じて。
「いって…!!」
と声を上げてしまっていた。
「…高松…?」
「あ、あはは、お、おはようございます。先輩」
直前まで触れようとしていたことに気まずさを感じて、俺は誤魔化し笑いを浮かべる。
矢谷先輩は寝起きのせいか暫く目をしばしばと瞬かせていたけれど、やがて意識がはっきりしてきたのか俺の姿を見て大きく目を見開くと。
「高松!目が覚めたのか!?」
と声を上げて身をがばりと起こす。
「え?えっと、はい、起きましたけれど。ここって一体?」
事情が分からずに首を傾げる俺を見て、矢谷先輩は一瞬ほっとした安堵の表情を浮かべたかと思うとすぐにキッと鋭い目で俺を睨みつけてきた。
「このっ、馬鹿が!」
「ええっ!?」
急に怒られて俺は訳が分からずに声を上げる。
え?何故俺は怒られてるんだろう?
もしかして、さっき触れようとしたことがばれたとか?
「てめぇが何も言わないから!こんな目にあってんだぞ!」
「え、えっと、すみません!…いっ…!!」
先輩の勢いにつられて訳が分からないまま頭を下げた瞬間、ズキリッと頭に激痛を感じて俺は顔を顰める。
矢谷先輩ははっとしたように俺を見て心配そうに告げてくれた。
「おいっ、大丈夫か…!?」
「いててっ…だ、大丈夫です…ちょっと頭が痛かっただけで…」
「壁に思いっきり打ち付けたんだ。無理はすんなよ」
「壁に…?」
「覚えてねぇのか?昨日の朝の事」
「昨日の朝、ですか?」
「ああ」
頷いて、矢谷先輩は説明してくれる。
月曜日の朝、俺はバイクを乗った男に登校中のところを襲われて壁に思いっきり叩きつけられた後、意識を失って丸一日目を覚まさなかった事を。
それで漸く、俺は月曜日の朝の事を思い出した。
そう言えばそうだった、と。
「じゃあ、俺昨日一日中意識を失ってたんですか?」
「ああ。病院で一応CT撮って内出血やひびは入ってないことはわかったけれど、意識は取り戻さねぇし、後遺症の事もあるから一日は入院って事になったんだよ。右肩の打撲も酷かったし、右脚もかなり捻ってたみたいで腫れてたからな」
「ああ、それで右腕がやけに痛いと思いました」
「頭は?他に吐き気とかはねぇのか?」
「あ、はい。大丈夫です。気分はすっきりしてます」
「そうか」
「あの、先輩もしかして一晩中ついててくれたんですか?」
俺が問いかけると、矢谷先輩は微かに顔を赤らめて不機嫌そうにそっぽを向いた。
「仕方ねぇだろ。俺しか暇な奴いなかったしな。お前は別の奴の方が良かったかも知んねぇけど」
「え?そんなこと全然ないですよ!矢谷先輩に付き添ってもらえてすごく嬉しいです!目が覚めて先輩の綺麗な寝顔見れたのも嬉しかったですし」
と、本当に心からそう思って笑顔で告げたのに。
「~~~っ!てめぇはまたんなことばかり言いやがって~~~っ」
「いひゃいいひゃいっ!」
何故か両頬を掴まれてひっぱられてしまったのだけれども。
丁度その時、ガチャリと病室の扉が開いて。
「高松君、どんな感じ?…って、意識取り戻したんだね!」
「あ、日比谷先輩!久瀬川先輩も!」
入ってきたのは、日比谷先輩と久瀬川先輩達。
そして、その後ろからぞろぞろと数人の男性達が入ってくるのを見て、俺は軽く目を見開く。
一緒に入ってきたのは、あの超絶美形軍団だったから。
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