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高坂から見た転校生
俺は今年で三年目になる、この学校の保健医だ。
ここの高校は、言っちゃなんだがあんまり出来のいい奴はいない。たいしてお勉強ができなくても楽に入れるような男子校だ。中にはお利口な子もいるが、ほんの極一部だろうな……
男子校ならでは……
そんな言葉で片付けてしまうのもどうなんだと思うけど、ここに勤務してから何度かあった。
同性に告白──
校舎内でレイプ目的で友達を襲う。喧嘩なんかはしょっ中だ。
面白半分、痴情のもつれ。
同性と付き合うのも恋心を告白するのも別に偏見はない。好きにすりゃあいい。俺も同性愛者だから。ただ若さもあってか時と場所もわきまえずに己の欲に任せて暴走をする。こういうのも学校側がちゃんと指導しなくちゃならないと思う。
でもさ、この時期の思春期っていうの?
付き合ってるだなんだ言ったって、一時の気の迷い…… そう感じることも多々あった。大概の奴は卒業したら普通に女と恋愛をして結婚して、子を作ったりするのだろう。
ちょっとした刺激を求めて……はたまた真剣な交際。
どちらも否定はしないけど、やっぱり見てると何とも言えない気分になるんだ。
誰だってしんどい思いはしたくない。
今楽しそうな奴らを見ていると、俺は勝手にそのずっと先を想像してしまい気分が落ちてしまう。我ながら面倒臭いと思うよ。
最近よく保健室にサボりに来る奴がいる。多分この学校一、目立ってるんじゃないかな。
かなりの長身でモデル体型。明るく透きとおった髪色。ハーフかな? と思わせるような少し色素の薄い瞳…… どうやら二学期からこの高校に転入してきたらしい一年生。そうは言ってもかなり大人っぽいその風貌はどう見ても一年生には見えない。その目立つ見た目も影響してか、他の生徒とは群を抜いて大人びて見えた。
初めて保健室に来た時の事……
俺に向かって言い放った第一声。
「あれ? 先生って男の人好きでしょ。俺と同じだね 」
返事に困った。
屈託無く笑うその笑顔に、見た目と中身のアンバランスさが垣間見れ少し心配に思った。
「俺、先生みたいな人 凄いタイプなんだよね」
俺はその調子のいい社交辞令をやんわり交わしながら、何しに保健室に来たのかそいつに尋ねた。
「頭痛いから、少し休ませて……」
そう言うなりベッドに勝手に潜り込む。
ベッドに入る前にちゃんと様子を見たかったけど、どうせサボりだろうから俺は机に向かったままカーテン越しにそいつに話しかけた。
「君、見ない顔だけど何年生? 名前は?」
思った通りの元気な声で、カーテンの向こうから返事が聞こえた。
「俺、結城志音 。こないだ転校してきたの。一年だよ、これからよろしくね」
こんな中途半端な時期に転入なんて珍しいな……と思いながら言葉を続けた。
「そっかぁ、一年生だったか。転校生ね。どうりでわからなかったはずだよ。志音くんみたいなイイ男、僕が気がつかないはずないからさ」
俺はいつもの調子で冗談を飛ばすとカーテンの向こうから可愛い笑い声が聞こえた。
「さすが先生、そんなこと言われたら惚れちゃいそう」
……なんだろなぁ、この感じ。
俺はこの時から、なんとなく志音に軽い違和感を抱いていた。
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