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ほっとけない
鬱々とした気分になった──
そして何故だかふと悠 の事を思い出した。
悠は俺が中学の時の先輩。
学年も違うし接点はなかった悠だけど、たまたま高校も一緒になり、友達の兄繋がりでたまに遊ぶくらいの友達になった。でも俺にとっては特別な存在だった。
大学に上がり卒業する頃、確かそのくらいの時に行きつけのゲイバーで再会をした。
俺より二つ歳上な悠は、大学を卒業したばかりの俺に色々親切にしてくれた。
歳上と言っても、見た目も若く話し上手な悠は全然歳上ぶらず、一緒にいて楽しかった。高校の時と何も変わらない悠に安心したし、懐かしさが溢れ出た。
体の関係をもったのはそれから早かった。
勿論割り切った関係、人肌恋しい時にお互い求め合う。
それ以上は求めない……
愛情と言うより、快楽だけの目的で俺は当時悠と体を重ねていた。
悠と再会したのはゲイバーだったけど、悠も自分の店を持っていた。 小洒落たバーで客層も静か。悠らしい、とても居心地のいい店だった。
俺はよく一人で悠の店に飲みに行っていた。
でも俺の仕事が決まり、ばたばたしているうちに悠の所へ行かなくなっていた。
とくに理由はないんだけど、まぁそのうち顔出すつもりでいて……
驚いた……
よく考えたら、それからもう四年も経ってしまっていた。
悠、元気でいるかな?
ぼんやりと俺は一人思い出に耽っていた──
そういえば最近志音、保健室に来ないな……
モデルの仕事をしてると言っていたけど、仕事が忙しいのかな?
なんて、志音の事を考えはじめたら保健室のドアが静かに開いた。振り返ると顔色の悪い志音が俯きながら入ってきた。
明らかに様子がおかしい。
そう思った俺は声をかけず、机で書き物を続けながら独り言のように「久しぶりだな」と呟いた。
志音は無言で布団に潜り込む。
俺は椅子を持ち、志音が潜り込んだベッドの横に静かに座った。
チラッとしか見なかったけど志音は泣いていた。
「元気ないな…… どうしたの?」
声をかけるも無視をされてしまう。言葉も出ないか……
「人生初めての失恋…… かな?」
布団の上から背中をとんとんと叩くと、涙声で「うるさい!」と返ってきた。
やっぱり失恋しちゃったか。きっと志音にとって初めての恋で、初めての失恋だったんじゃないかな……
志音は自分の弱味を見せられる人間はそばにいるんだろうか…… こういう時、慰めてくれる友達はいるのだろうか。
「…… 辛い時は泣いてもいいんだぞ? 今は誰もいないし、僕の前では素直になりなよ」
布団に潜り込んで体を小さく丸めて泣いている志音……
「君を見てるとなんだかほっとけないんだよ……」
思わず声に出してしまい、少し焦って俺は机に戻った。
小さな声で「ありがとう」と聞こえた気がした。
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