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こんなの俺じゃない

俺が落ち着くまで先生はずっと抱きしめてくれた── 人のぬくもりって、こんなにあったかかったんだ。こんなに気持ちが良くて穏やかで…… 俺はそんなことも知らなかった…… どのくらいこうしていたんだろう? 恐る恐る顔を上げて先生を見ると優しい顔で俺を見てるから恥ずかしくなってしまった。 「先生? 俺…… 抱きしめられるのがこんなに気持ちがいいなんて知らなかったよ」 勝手に言葉が溢れてしまう。先生はキョトンとして俺を見た。急にこんなことを言い出した俺に困惑しているんだろうな。ちょっと変なことを言ってしまったと後悔した。 「あ…… ごめん。変だったよね。他人に体を触られるのってさ。今まで嫌悪感ばかりだったから……」 今度は複雑な表情になってしまった。先生は黙ったまま、また俺を抱きしめる。さっきよりもずっと力がこもっていて、ちょっと苦しくなってしまった。 「俺ね、初めて人を好きになって、抱きたい…… 自分からキスしたいって思ったんだ。でも俺が好きになった人は他に好きな人がいたから…… それわかってても抑えられなくて、押し倒してキスしちゃった。凄いドキドキして嬉しかったんだけど、それ以上に悲しかった……」 なに俺、先生にこんな話しちゃってるんだろ。でも誰かに聞いて欲しかったんだ。 先生は俺の話を黙って聞いてくれてる。 抱きしめてくれてる先生の背中に腕を回す。 やっぱりあったかい…… 抱きたい…… 触れたい、愛されたい……そう思ったら自分のしでかした事に後悔しか湧いてこなかった。でも先生が黙って俺を抱きしめてくれるのが「大丈夫だ」と言ってもらえているようで安心した。 ここから離れたくない衝動にかられる。 どうしよう…… 今まで何とも思わなかったのに、今は一人になるのがこんなにも不安に思う。思わず先生の背中に回した手に力が入った。 話をやめて黙りこくった俺を不思議に思ったのか、先生は俺を見つめ「どうした?」と聞いてくる。何も言えない俺を見つめながら「そろそろ帰るかな」と先言って先生は立ち上がった。 「あ…… 」 嫌だ! と思い、咄嗟に俺は先生のズボンの裾を掴んでしまった。 驚いて振り返り、またしゃがみこんで俺の顔を伺い見る先生。 「……やだ。何かわかんないけど、一人になるのが嫌だ。先生…… 今日はここにいて…… お願い、ひとりにしないで」 何やってんだろう…… こんなこと言ったら困らせてしまうとわかっているのに。 それにこんなの俺じゃない…… 先生は困惑したような顔をしたけど「わかった」 とひと言、返事をしてくれた。 「ごめん、先生……」 困らせてごめんなさい── とりあえず服が皺になるのが嫌だから何か部屋着を貸せと言うのでスウェットを渡すと、先生はシャワーを浴びに行ってしまった。 あ…… 「今日はここにいて」なんて言ってしまったけど大丈夫だよな? 変な風に思われてないよな。今更ながら自分の痴態に恥ずかしさが込み上げてしまう。 俺、あんな風に縋っておいてこんな事言うのは何なんだけど…… そんな気は全然ない。誤解してしまっただろうか? まさか生徒に手を出すなんてことはないよね? と思いつつ、先程からの先生の軽い態度に不安になった。 色々考えて焦っていると、先生がシャワーから戻ってきた。綺麗な色をした髪から雫が垂れてる。 なにそれ…… 無駄に艶っぽい。 「志音、少しは落ち着いたか? お前、相当参ってんだな…… あんまり無理すんなよ」 ありがとう…… やっぱり居てくれて安心する。 「先生、髪から垂れてる。俺が乾かしてやるよ」 ちょっと照れくさくそう言うと、俺はドライヤーで 先生の意外に柔らかくて細い髪を乾かしてやった。

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