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ぬくもり
「生徒の家に泊まるなんて初めてだ……」
先生がドライヤーの風に目を細める。
「俺も人を泊めるの初めて」
俺が言うと、にこにこしながら「襲うなよ」と先生は笑った。
「はい、髪 乾いた…… 先生、俺そんな気ないから安心してね」
先生はきょとんとして俺を見たけど「それはこっちのセリフだ」と俺の頭をくしゃくしゃにした。そうだよね、俺みたいな子どもなんて相手にしないか。ふざけてくれた先生にちょっとだけホッとした。
俺もシャワーを浴びて部屋に戻るとソファで寛ぐ先生がちゃっかり冷蔵庫からビールを出して飲んでいた。
「あ、悪い。勝手に貰った」
勝手にやってくれるのも全然構わないし、凄い寛いでくれているのがわかって嬉しかった。
「ご自由に…… 俺にも取って」
そう言うと未成年だと言って速攻却下されてしまう。なんだよ、そのビールだって俺のなんだけどな。
俺はソファに座る先生の横に座り、テレビをつける。ソファの前のテーブルはガラスの天板の下に物が入るようになっていて、俺はそこに数冊の雑誌を入れていた。勿論俺が載っている雑誌もある。それに気づいた先生が、その中から徐に一冊手に取った。
しばらく先生はページをぱらぱらめくっていたけど、俺の顔をちらっと見るなり「別人だな…」と呟いた。
「そう? 着飾って綺麗にしてるからね」
「そういう意味じゃないよ」
先生は笑いながらそう言って、俺の頭に手を置いた。
「俺はそこの着飾ってるよそ行きの志音より、目の前の年相応な志音くんが好きだな」
先生は俺の生乾きの髪を笑いながらぐしゃぐしゃにした。さっきから必要以上に触れられているような気がする。嫌じゃないけど先生っていつもこうなのかな…… 誰にでもこうなのかな?
「…… さっきなんであんな風に言ったの?」
急に改まり、先生は静かに話し出す。突然のことで何のことやらさっぱりだった。
「今、俺に触られてて嫌悪感あるか?」
あぁ…… そのことか。あんなのサラッと流してくれてよかったのに。
「普通は抱きしめられると安心したり愛しかったり……そういう気持ちになると思うんだけど」
そんな風に先生は聞いてくるけど、今俺は横に座る先生に体を預けるように寄りかかって寛げている。触られるのだって全然嫌じゃないよ。
そもそも初めから嫌悪感なんてない。
「大丈夫だよ先生。ごめんね、変な事言ったよね俺。先生に抱きしめて貰って凄い安心してるから」
相変わらず俺の頭を撫でている先生の手があったかく、気持ちがいい。
「今までは俺の気持ちに関係なく…… 抱かれることが多かったから」
そう呟くと先生の顔が曇った。
「どういう事だ? それって誰かに強要されてたってことか?」
あぁ…… 違う、怒らないで。
「先生? 俺大丈夫だよ。昔の事。今はなんでもないし、誰かに強要されてたんじゃない。そういうもんなんだと思ってたから無理矢理じゃないんだ。俺が馬鹿だったから……」
頭にある先生の手を取り、両手で包む。あんまりこの話はしたくなかった。
「昔の事って…… お前今幾つだよ? 最近の話なんじゃないのか? 」
「………… 」
俺はさっきから何でこんなに余計なことばかり喋ってしまっているのだろう。
「周りに、いい大人がいなかったんだな……」
先生はそう呟くと、俺の手を解きまたぎゅっと抱きしめてくれた。
「先生、もうこの話はおしまい…… 心配してくれてありがと」
俺は先生に寄りかかったまま、視線をテレビに戻した。
先生はそれからは何も言わず、俺の肩に手を回したまま何を考えているのかわからない表情で テレビを見つめている。
俺の方が先生より少し大きい筈なのに、この包み込まれている感覚が何とも居心地がよくて、段々瞼が重くなってきてしまった。
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