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オンとオフ
超絶不機嫌な真雪さんは気が済んだのか俺の家から帰って行った。電気もつけずにいた薄暗いリビングで俺はしばらく呆然としていた。
ちゃんとわかってる。自分の怠慢で真雪さんをあそこまで怒らせてしまったことを猛省した。
……あ!
今日は悠さんの店に行くつもりだったのを思い出す。高坂先生にもそう言っていたのに真雪さんの恐怖の説教で忘れるところだった。俺は急いで支度をすると、悠さんの店へ急いだ。
「悠さん、こんばんは!」
店に入るといつもと変わらない笑顔で迎えてくれる悠さん。
「いらっしゃい。ちょっとご無沙汰だね。寂しかったよ。志音くん」
高坂先生の姿を探す。相変わらずの客の少なさ。ひと目見て先生の姿がないのがわかった。
……先生、まだ来てないや。
「ん? 誰かお探し?」
悠さんに聞かれ、先生の事を話した。
「まだ来てないよ。なになに? 秘密の逢引?」
冗談ぽく言う悠さんがニヤニヤする。
「そんなんじゃないって……そもそも俺みたいなガキは相手にしてくれないよ」
俺はちょっと複雑な気分でそう答えた。
学校じゃない所でこうやって会うこと自体、普通じゃないのは分かる……でも特別な意味は無い。
いつの間にか先生が来ていて俺の隣に座っていた。
「……お待たせ。なんの話? あ、志音! 酒は飲んでないだろうな?」
「うん、勿論。先生……席移る」
俺はカウンターではなく、店の一番奥のテーブルに先生と移動した。
テーブルに先生と斜に座る。薄暗い店内の照明が無駄に雰囲気がよくて、学校とは全く違った先生の顔に思わず見惚れてしまった。
「志音? どうした? 俺に話あるんだろう?」
頬杖をつき、俺の顔を下から覗き込むように見る先生。
やっぱりだ……
「先生? 学校とプライベートだと雰囲気が全然違うのな。わざと?」
先生は学校だと自分の事を「僕」と言って、話し方も柔らかい。人当たりのいいお兄さんみたいな雰囲気がある。
でも今 目の前にいる先生は、自分の事を「俺」と言い、少し棘のあるセクシーな男の雰囲気を醸し出してる。
「オンとオフを使い分けてんだよ」
そう言って先生は柔らかそうな髪を弄りながら笑った。
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