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幼少期

「お前、俺に話したい事があったんだろ?」 そう言いながら、先生は俺の頭に手をやる。 ……目が合ってドキッとした。 「あ……うん、話。先生何か心配してそうだったからさ、俺の親の事言っておこうと思って」 そうか、と先生は俺の目を見つめたまま微笑んだ。 「何から話したらいいんだか……とりあえず、今 俺の親代わりになってくれてるのは事務所の社長なの。俺の恩人……今の親はいい人達だから心配ないよ」 胸の鼓動が強くなる。なに俺ドキドキしてんだろうな。こんな話今まで誰にもしてないから、きっと変に緊張してしまうんだ。 「今……って事は、それ以前は違かったのか?」 相変わらず俺の目をジッと見つめたままの先生が静かに聞く。 「……俺さ、ほんとの親は知らないんだ。四歳の時、前の親に貰われた。子供が出来なかったんだってさ。すげえ金持ちで、優しい両親……養父は歳いってたけど養母は若くて綺麗な人だった」 そう、俺は金持ち夫婦に貰われたんだ…… でっかいお屋敷、優しくて若い母親。父親は仕事が忙しくて世界中を飛び回り、ほとんど家にはいない。それでも母さんと、世話をしてくれるお手伝いさんと俺は幸せに暮らしてたんだ。 俺が小学校に上がる頃だったか、母さんのお腹に子供が出来た。子供が出来ないって諦めていたから、そりゃもう大喜びで。俺もお兄ちゃんになるんだよって毎日言われてウキウキしてたんだ。 でも、産まれてからは違った…… その日から俺はお手伝いさんと二人で、屋敷の離れに住まわされることになった。 俺は本当の子じゃないから……俺は兄ちゃんにはなれなかったんだ。 たまに帰国する父さんも、俺の顔なんか見ずに後から産まれた大事な息子にだけ愛情を注ぐ。 まるで俺なんか存在しないかのように…… 記憶が残らないくらい俺が幼かったらよかったのに、残念な事に新しい両親が出来た喜びと捨てられた悲しさはしっかりと記憶に残っている。 小学校の授業参観や個人面談は、お手伝いさんの陽子さんが来てくれる。小学校時代の俺の母さんがわりは陽子さんだった。 そんな生活でも、やっぱり俺は母さんが恋しい。 小学校五年生の頃、突然母さんが離れに顔を出したんだ。 夜になるとたまに離れにやってくるようになった母さんに俺は素直に甘えた。 「今日は何の勉強をしたの?」 「好きな女の子は出来た?」 そんな他愛ない話をしながら、母さんは俺の頭を撫でてくれる。 一週間に一度の楽しみだった…… そこまでの話を、高坂先生は複雑な顔をして聞いている。 こんな話、していいのだろうか? と少し躊躇うも、ここまで話してしまっては今更やめることもできないと思い話しを続けた。

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