25 / 165

縋る

俺が客とデートをしている時、怪しい女に声をかけられた。 「君、かっこいいね。モデルとか興味ない?」 突然そんな事を言われ唖然とするも、その女の雰囲気は全く嫌な感じがなく、むしろ俺はこの怪しさ全開の女が面白そうだと感じてしまった。 一緒にいた今日のデート相手が面白みのないおじさんだったから余計だったのかもしれない。 「興味あるかも…… 」 そう答えると、隣にいた客に腕をひっぱられてしまった。 「志音? こういうのは怪しいからやめときなさいって」 「あ、お父様、私こういう者ですが、決して怪しい者では……」 馬鹿デカいサングラスを外しながら、その女は俺の客に向かって名刺を差し出す。思わず吹き出しながら、俺は首を振った。 「違うよ、この人はお客さん。ただのデート相手」 客はギョッとした顔をして、慌てて何かを言いながら俺に金の入った封筒を握らせ、逃げるように去っていった。 「………… 」 変な空気が流れる。客は勝手に帰っちゃうし、目の前の女には睨まれるし、どうしたものかと思っていたら「ちょっとだけあなたの時間をちょうだい」なんて言いながら、近くの喫茶店に連れていかれてしまった。 「あなた、うちで働きたい? あなたなら私が手をかければ間違いなくモデルでやっていける。私はあなたをモデルにしたい。でもその前に……今言ってた客とかデートとか、私に詳しく聞かせてくれるかな?」 名刺をテーブルに置く。 そこには事務所の名前と、社長という肩書きの横に '結城真雪(ゆうき まゆき)' と書いてあった。 その真雪さんに力強い目で射抜かれるように見つめられ、なぜか俺は今までの生い立ちをべらべら喋っていた。 本当に 何で初めて会ったこの人にこんな話をしてしまったのか…… きっと何かに縋りたかったんだ。何でもよかった。今の現状から逃げ出したい気持ちが、この人に縋ってしまう形になったんだと思う。 俺の事を必要と言ってくれる何かに── 黙って俺の話を聞いていた真雪さんは、「ちょっと失礼」と言ってどこかに電話をかけに行ってしまった。 しばらくすると戻ってきて、はっきりと俺にこう言った。 「私があなたを助ける。私があなたの親になる。安心しなさい」 ……なんで? 「涙を流して助けを求めてる子供を放っておけるほど、私は鈍感な人間じゃないの」 そう言われて、俺は泣いてる事に初めて気が付いた。

ともだちにシェアしよう!