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別れと出発
それからは、なんだかあっという間だった。
真雪さんが俺の住んでいる離れにやってきて、お手伝いさんの陽子さんと話をする。
陽子さんは俺が小さな頃から母親がわりで俺を育ててくれた人。
陽子さんは俺の事をちゃんと見てくれていた。
夜な夜な訪れる母さんとの事も、全て知っていた。俺に客の相手をさせ金を取っていたことも……
俺を助けてやりたい一心で、陽子さんはその様子をこっそりと録音して記録に残してくれてもいた。 でも、雇主を裏切るようなことも出来ず、何も行動に起こせないでいた自分を責めていた。
目の前で俺に泣いて謝ってくる陽子さんに俺は何も言えなかった。
だって陽子さんがいなかったら、俺は誰にも愛されていないという事実に押しつぶされ、きっと死を選んでいたと思うから。
虐げられながら、こんな俺を自分の子供のように見守ってくれていた。こんなにも心配してくれていた事を知り、嬉しさが溢れ俺も泣いた。
その後、陽子さんも色々と協力、証言をしてくれて家庭裁判所での離縁審判を受けた後、俺はこの養父、養母と縁を切ることができた。
今、この人達がどうしているのかは俺は知らない。
もう俺には関係のない事──
そして真雪さん夫妻の子として、俺は新たな家族を手に入れたんだ。
ここまで黙って話を聞いていた高坂先生は、相変わらず俺の手を握ったまま俯いている。
今までの生い立ちを一気に話してしまったけど、先生はどう思っただろう……
それぞれのグラスが、びっしりと汗をかいてテーブルに小さな水溜りを作っている。
「……先生? お代わりもらう?」
あまりにも先生が黙っているので、俺はいたたまれなくなってそう聞いた。
「………… 」
先生は何も言わない。無言で俯いたまま。
「先生?」
突然先生は立ち上がり、悠さんの所で会計を済ませると、俺の手をぐっと引き「お前の家に行くぞ」と呟いた。
……何なんだよ。
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