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本当は
「……ん、寝る」
そう呟きながら、俺のベッドへ向かう先生。
もぞもぞと布団に潜り込み、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。
その様子を寝室の入口で見守ると、俺はまたリビングのソファへ戻る。
先程のワインを飲み終えると、のろのろとそこを片付け、俺もシャワーを浴びた。
結局、悠さんのところで先生と出会ってから、自分の事、全部話しちゃったな。
なんか不思議だ。
吐き出して、聞いてもらって、少しずつ胸の中の淀んだ部分が消えていく感覚。
やっぱり聞いてもらえてよかった──
俺は、ベッドで丸まって眠っている先生の隣に入る。
先生とこうやって話すようになって、新たに湧いてきた感情があった。
最初は胸のあたりがギュッと暖かくて心地よかったはずなのに、今夜はドキドキして恥ずかしい。
俺に背中を向けて寝ている先生。
気付かれないように、そっとその背中に額だけつけてみた。
先生の呼吸が背中から俺の額に伝わってくる。他人との触れ合い……抱きしめてもらったことで、それが心地の良いことだと俺は知ってしまった。
……やっぱり抱きしめて欲しい。
何でこんなに切なく感じるんだろう?
そっと、起こさないように先生の肩に手を置いた時、先生がビクッと動いた。
「あ…… ごめんね。起こしちゃった?」
恐る恐る聞いてみても、先生は黙っていて何も言わない。
「……先生。俺の事、抱いてよ」
黙って何も言わないその背中に思わず俺は呟いた。
言ってしまった……
俺はまた先生を困らせてしまった。
何か言ってよ、先生。
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