29 / 165

本当は

「……ん、寝る」 そう呟きながら、俺のベッドへ向かう先生。 もぞもぞと布団に潜り込み、すぐに寝息を立てて眠ってしまった。 その様子を寝室の入口で見守ると、俺はまたリビングのソファへ戻る。 先程のワインを飲み終えると、のろのろとそこを片付け、俺もシャワーを浴びた。 結局、悠さんのところで先生と出会ってから、自分の事、全部話しちゃったな。 なんか不思議だ。 吐き出して、聞いてもらって、少しずつ胸の中の淀んだ部分が消えていく感覚。 やっぱり聞いてもらえてよかった── 俺は、ベッドで丸まって眠っている先生の隣に入る。 先生とこうやって話すようになって、新たに湧いてきた感情があった。 最初は胸のあたりがギュッと暖かくて心地よかったはずなのに、今夜はドキドキして恥ずかしい。 俺に背中を向けて寝ている先生。 気付かれないように、そっとその背中に額だけつけてみた。 先生の呼吸が背中から俺の額に伝わってくる。他人との触れ合い……抱きしめてもらったことで、それが心地の良いことだと俺は知ってしまった。 ……やっぱり抱きしめて欲しい。 何でこんなに切なく感じるんだろう? そっと、起こさないように先生の肩に手を置いた時、先生がビクッと動いた。 「あ…… ごめんね。起こしちゃった?」 恐る恐る聞いてみても、先生は黙っていて何も言わない。 「……先生。俺の事、抱いてよ」 黙って何も言わないその背中に思わず俺は呟いた。 言ってしまった…… 俺はまた先生を困らせてしまった。 何か言ってよ、先生。

ともだちにシェアしよう!