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好き
手が震える。
どうしよう……
先生は俺に背を向けたまま黙っている。
「先生、ごめんね……俺……」
先生は、小さく溜息を吐いた。
「志音、お願いだから俺を煽るな」
ゆっくり俺の方を振り向くと、思い詰めたような顔をしてそう言った。俺は堪らなくなり先生の胸に顔を埋める。
「別にいいよ。煽られてよ……」
そう言って俺は躊躇う先生の唇に自分の唇をそっと重ねた。
「んっ……こら! 志音やめろって……」
先生は慌てて俺から逃れようと首を逸らす。
俺のことを心配してくれてここまでしてくれてるのに、俺は自分の寂しさから我儘になってしまった。
話を聞いてくれて親身になって、俺のために泣いてくれた……でも先生はきっと誰にでも優しい。俺だけ特別だなんて思い上がりだ。それくらいわかってる。
それでも拒否されるのがたまらなく嫌だと思ってしまった。
酷いな。
俺は無理矢理先生の頭を押さえつけた。
「逃げないで。俺、この気持ち……きっと先生の事、好きなんだ」
涙が出てくる。なんでこんなにまで縋ろうとしてるんだろう。
「抱いてよ。お願い 先生……」
先生の胸に顔を埋めグズグズと泣いていると、そんな俺の頭を抱えてまた先生は溜息を吐いた。
「煽るなって……言っただろ」
そう言いながら先生は俺の顔を上げさせ、頬の涙を舐めとり、それから俺にキスをしてくれた。
先生はゆっくりと俺に覆い被さり、俺の頭を優しく撫でる。額から髪をかきあげるようにして前髪を退かし俺の額にもキスをすると、もう一度唇を重ね探るように舌を侵入させてきた。
「……んんっ……ん 」
思わず声が漏れてしまう。
こんなに優しいキス……俺は今までされた事がない。
長いこと蕩けるようなキスをしてくれ、チュッ…と音を立てて唇が離れていく。
「今日はここまで……おやすみ志音」
先生はそう呟くと、俺をまた胸に抱き目を瞑った。
「おやすみ、先生……ありがとう」
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