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高坂の後悔

久しぶりに志音が保健室に来た。 疲れたから休ませろと言う…… 実際のところ、仕事なのだろうか学校にも来ていなさそうな感じ。志音の顔を見るのも久しぶりだった。 数日前も志音の担任が俺に何か言いたそうな顔をしていたっけ…… 志音は俺のことは気にせず真っ直ぐベッドに向かう。ちらっと見えた横顔。少し顔色が悪く見えた。 仕事を無理してるんじゃないだろうか? 今は仕事より学校が大事だろ? 俺は志音に「ここに座れ」と椅子をすすめる。しっかり顔色も見たいし話もしたい。 「なに? 先生、俺寝たいんだけど」 「だめ。ちゃんと顔を見せて」 そう言いながら、俺は志音の頬に触れた。 ……綺麗な目。 「はい、今度はアーンして」 「………… 」 なんのプレイだと言って志音が笑った。 いつもの作り笑顔じゃなく、ちゃんと本心で笑ってるのがわかって嬉しく思った。 それとなく最近の様子を聞き出すと、出席日数の事で親と呼び出しがかかってると屈託なく笑う。 志音の親と聞いて、怪訝に思った。 親は死んだと前に言っていたはず。志音の言う「親」とは育ての親のことなのか? 不思議とこいつには'家族'というものが見えてこない。 でも呼ばれてるって事は、ちゃんと親ってのがいるんだろう。 俺が不審な顔をしていたのがわかったのか、話がしたいと志音に誘われた。 俺が志音の親について不審に思っているのを気にしてのお誘いなのは、もちろんわかっている。わかっていても、どこかドキドキしてしまう自分がいた。 高校生相手に俺は何を期待してるんだ…… 志音は生徒だぞ? 俺は志音に関わりすぎてしまった事に正直後悔をしていた。生徒であるこいつに、惹かれ始めている事を俺は認めたくなかった。 悠の店で待っていると言った志音。この誘いにのこのこと俺は行ってもいいのだろうか? このまま志音に関わり続けたら、俺はきっと戻れない…… 仕事を終え、外に出るも足が重かった。すぐに悠の店には行かず、近くの居酒屋で少し呑む事にした。 一人ぼんやりと、志音の待つ悠の店に行くべきか考える。 だけどそんなのいくら考えたって同じだ。 志音に会いたい。 俺に話したがってる志音の話をちゃんと聞いてやりたい。 やっぱり俺は志音の事を放っておくことは出来なかった。

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