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偽る
「先生、ごめんね……俺……」
そんな泣きそうな声で謝るなよ。堪えられなくなる。
「志音、お願いだから俺を煽るな」
そう言って俺は志音の方へ振り向いた。
別にいい、煽られてと言う志音は顔を紅潮させそのまま俺の唇を奪った。
「んっ……こら! 志音やめろって……」
俺の気も知らないで……ダメだ、本当に抑えられなくなる。
志音は生徒だ。
それに俺なんかが感情に任せて抱いちゃいけない……
わかってる。
何とか志音から逃れようとするも、頭を押さえつけられてしまった。
「逃げないで。俺、この気持ち……きっと先生の事、好きなんだ」
……違う! それは違うよ、志音。
抱いてと言いながら俺の胸に顔を埋める。そんなことをされて愛おしさが込み上げないわけがない。自然と志音の頭を俺は胸に抱きしめてしまった。
「煽るなって……言っただろ」
志音の顔が見たい……しがみつく志音の顔にそっと手を添え、上を向かせる。やっぱりその顔は泣いていて、堪らなくなった。
俺は志音の頬を濡らす涙を舐めとり、そのまま優しくキスをした。
紅く頬を染め目を瞑る志音の表情が、怯える子どものようにも見える。
俺は昂ぶる気持ちを押し殺し、志音に覆いかぶさるように抱きしめた。
頭を撫でてやると、安心したように軽く微笑む志音が やっぱり愛おしい。
もっとよく顔が見たくて、額にかかる前髪を退かす。
透き通る綺麗な肌……
額にキスを落とし、もう一度志音の顔を見る。
吸い込まれるように再度唇を重ねると、俺を迎え入れるように志音の舌が俺を誘った。
思わず漏れた志音の小さな吐息に俺の理性が揺さぶられる。
……壊しちゃいけない。
これ以上は進んじゃいけない。
名残惜しさを感じながら、チュッと音を立てて俺は唇を離した。
「今日はここまで……おやすみ志音」
バカじゃないのか? 今日はここまで……なんて言ってしまった。
この続きはあっちゃいけないのに。
ごめんな志音。
傷付けたくないんだ。
お前も、俺も──
俺は志音に背中を向け、目頭が熱くなるのを手の平で押さえた。
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