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気不味い
朝、目が覚めると先生はもういなかった。
リビングに行くとコーヒーのいい香りが鼻を擽る。
「先生、またコーヒー淹れたんだ…… 」
俺はカップにコーヒーを注ぎ、学校に行く準備を始めた。
……俺、先生とキスしちゃったんだ。でもやっぱり抱いてはくれなかったな。
わかりきったことを考え、溜め息を漏らす。
先生からしたら俺は一生徒でしかない。それなのに少しでも勘違いをした俺が浅はかで愚かなことだとわかっている。でも俺の話を親身になって聞いてくれて嬉しかった。
しょっ中保健室に顔を出していたけど、流石に今日は恥ずかしくて行くことができなかった。
あれから何日か経った──
先生だから優しくしてくれたんだ。
俺の話を聞いて涙を流し、抱きしめてくれた。嬉しかった…… 抱いて欲しいと願ったらキスをしてくれた。
そんなのやっぱり勘違いするじゃん……
先生の顔が見たい。でももう困らせるようなことはしたくない。
ぼんやりと考えてると、竜太君が心配そうに俺を見てるのに気がついた。
「……なに?」
ジーっと俺の目を見てるだけで何も言わない竜太君。その瞳、見透かされてるようでちょっと苦手だ。
見つめられると恥ずかしくなる……
「志音、最近毎日学校来てるね。お仕事忙しいのは落ち着いたの?」
暫しの沈黙の後、竜太君がそう俺に聞いてきた。
最近毎日って……それ以前も毎日来てたけど単にサボっていただけ。
「そうだね。サボらないで毎日来てるよ」
そう言って俺は笑った。
「……志音、元気ないけど大丈夫?」
突然そう言って俺の頭を撫でる竜太君。
少しドキッとする。でもちょっとしたスキンシップが嬉しかった。
「僕の気のせいならいいんだけど……相談とか悩み事あるならいつでも聞くからね」
竜太君は小声で俺にそう言うと自分の席に戻った。
鋭いんだな……竜太君。
気にかけてくれて ありがとう。
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