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高坂から見た竜太という存在
あの日から志音は一度も保健室に来ていない。
やっぱり気まずく感じてるんだろうな。
俺は毎日、保健室にサボりに来る生徒達の相手をする。
恋の相談とか、以前は楽しんで相談に乗ってたんだけどな。
……最近はちっとも面白くないし面倒くさい。
志音の担任がフラッと保健室に来て、ここの所毎日学校に来てるし授業にも参加してるから良かったと俺に礼を言ってきた。
そんなの俺は何もしていない。そんなこと言う暇があるなら直接志音を褒めてやりゃいいのに。
でも、ちゃんと学校に来てるんなら俺も安心だった。
椅子に座り、誰もいない保健室でコーヒーを淹れる。
ぼんやりと椅子に座り志音の事を考えた。
これ以上志音と関わっちゃダメだって思えば思うほど、頭の中は志音でいっぱいになってしまう……
いい歳して何やってんだと己を恥じた。
不意に保健室のドアが開き、誰かが入ってくる気配に振り返るとそこには竜太君の姿があった。
「あれ? 珍しいね。竜太くんどうしたの?」
怪我でも具合が悪いようにも見えず、何かを言いたげに俺の顔を見る竜太君。
「あ、あの……頭が痛くて… 」
普段はちょっとした怪我で保健室に来ることの多い竜太君は、僕は嘘をついてますって顔をして頭痛を訴えてきた。
「竜太くん? 何か相談事だろ?」
竜太君に椅子をすすめると、ちょっとバツが悪そうにそこに座った。
志音が初めて好きになった相手──
相手が誰かなんて志音は言わなかったし、俺も知らなかったけど竜太君の描いた文化祭に展示する予定の描きかけの絵を見て俺はわかってしまった。
志音を「大事な友達」として受け入れてくれた竜太君。
志音、ほんとお前は見る目があるよ。振られたけどな。
だからお前が俺なんかに惹かれ始めているのが理解できない。
「先生、最近ね……志音が元気ないんです」
相談って志音の事か。
「最近すごい顔付きがイキイキして見えて、かっこいいなっ、なんかいい事あったのかな?って感じだったんです。でも、たまにフッと寂しそうな顔を見せるんです。ほんとに一瞬なんですけどね……なんかあんなに寂しそうな顔、見た事なかったから気になって。あんまり志音、自分の事話したがらないから。こういう時、友達として僕は何をしてあげられるんだろう……」
竜太君も、あまり自分からはアクションを起こさないタイプだ。
でもよく見ている。
今まで他人に意識を向けなかっただけで、いざ他人を気にするようになったらその観察眼は凄いものがある。
竜太君は誰よりも人の気持ちがわかる子だった。
「竜太くんはどうしたいの?」
そう聞いてみると、優しい笑顔を見せ「志音が元気になってくれればそれでいいです」そう言って笑った。
単純明解。
「また志音くんが元気がないように見えたら、竜太くんがそばにいてあげるといいよ。一人じゃないよってわかるだけでも元気は出るもんだからね」
……ほんとは、俺が寄り添ってやりたい。
そんな思いを押し殺す。
「早く元気になるといいな。気にかけてくれてありがとな」
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