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悠
久々に悠の店に顔を出した。
「お、いらっしゃい」
変わらない笑顔。俺が素でいられる唯一の場所。
「……志音 来てる?」
何となく聞いてみた。
来ていたところでどうもしない。
「ああ、最近来てないね。お仕事忙しいのかな? 会いたいなぁ」
まあ高校生だし、こういう店には来ない方がいいんだ。
そっか……来てないのか。
どうもしないなんて思いながら、でももしかしたら会えるかも……なんて、気持ち悪い事を考えてた事に気付きゾッとした。
「………… 」
「なんだよ?」
悠にジッと見られドキッとする。
お喋りなこいつが黙っているのは不気味だった。
「……なに? 俺の顔になんか付いてる?」
フッと微笑み、悠が俺に顔を近付けた。
「陸也どうしたの? 心ここに在らず……元気ねえじゃん」
「いつもと変わらないよ」
顔に出てるのかな?
高校生相手に気持ちを揺さぶられて、四六時中その相手の事が気になってしまってる……
俺は今まで、誰かひとりの事をこんなにも想ったりした事がない。
そんな気持ちになった事がないから、怖いのかもしれない。
ましてや相手は高校生で俺の勤務する学校の生徒だ。
「ほんとどうしたの? 久しぶりに抱かれたいって思うくらい色っぽい顔してるよ……陸也」
俺に顔を近づけたまま、悠が小声で囁いた。
「………… 」
色々考えすぎて飲みすぎてしまった。帰るのも面倒だし、一人でいるのも寂しく思ってしまった。
「悠の部屋、行く……」
ずっと頭の中を占めている志音を追い出したかった。
悠と体を重ねれば、この不純な気持ちを消すことが出来るかもしれない……そう思って悠に言った。
悠はそんな俺に何も言わず、黙ったまま微笑むと従業員に声をかける。
「あとはよろしくね。俺、今日はもう上がるから……」
そう言って俺に「待ってて……」と言いながら悠は帰り支度を始めた。
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