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志音と敦
悠と二人、夜風にあたりながら並んで歩く。
少し酔った頬に冷たい風が撫でた。
悠が俺の肩を抱き、少し心配そうに見つめてくる。
「……大丈夫か? 酒弱いのに…… 」
大して弱くないし、ほっとけ……
悠のマンションは、この人混みを抜けたところにある。
バーから歩いて十分もかからない場所だった。
「……あれ?」
急に悠が足を止め、道路の向こう側を見つめて呟いた。
悠の声につられ俺もそちらを見てみると、道行く人より頭ひとつ分大きな 一際目立った二人組が視界に入った。
志音だ……
志音と一緒にいるのは誰だろう?
志音の華やかさに引けを取らず周りから注目されているその人物も、恐らく志音と同じモデルか何かなのだろう。
「うわぁ! あれ志音と敦じゃん! 目立ってんなぁ」
「敦?」
首を傾げる俺を見て、悠が続けた。
「敦って知らね? 最近テレビでもたまに見るよ。モデル。やっぱりかっこいいよな」
志音と同じモデルと聞いて少しイラつく。志音と並んで歩いている姿がお似合いすぎて、正直俺は見たくなかった。
……これは紛れもなくヤキモチだ。
しばらく見ていると、敦が志音の肩に手を回し寄り添うように歩いている。
密着しすぎじゃね?
「俺、敦のサインでも貰ってこようかな 」
少し浮かれた感じで悠がはしゃいだ。
……バカじゃないの?
「サインって……あんなに仲良さそうなんだからさ、そのうち志音が店に連れてくんじゃない?」
俺がそう言うと、悠の店に志音が誰かを連れてきたことは一度もないと教えてくれた。来るときはいつも志音一人なんだそうだ。
「志音が店に来る時はいつも一人だし、静かに飲んでるか俺と他愛ないお喋りして帰っていくよ。たまに居合わせた他の客と喋ったりしてるけど……」
なんとなしにもう一度志音を盗み見ると、不意に敦が志音の首筋に顔を近付ける。
次の瞬間、敦が志音の両肩を掴み 横のフェンスに押し付けた。
「おお? 喧嘩か?」
悠が面白そうに志音を見ながらそう言ったけど、あれは喧嘩なんかじゃない……
敦が志音の耳元で何かを囁いていた。すぐに二人は離れてまた歩き出したけど……
一瞬だったけど、敦が志音に向けたあの眼つきを見て俺は胸が苦しくなった。
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