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淡い思い出

悠のマンション── 玄関に入るなり、悠が俺に抱きつきキスを強請るように顔を近付けてきた。腰に手を回し、その期待に添うように俺は悠に口付ける。 腰に回した手を服の中に忍び込ませると、悠は敏感に反応を示した。 四年振りの悠の温もり。 唇を重ね探るように舌を差し出し、確かめ合うようにゆっくりとお互いを舐った。 「……陸也、いいの?」 ふと俺から離れた悠は、人差し指を俺の唇にそっと当てる。 何かを含んだような言い方をして俺を見つめた。 「なんだよ。いいよ……シャワー行ってこいよ」 「そか…」と一言呟き、シャワーを浴びに行く悠の背中を眺めながら、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを一本取った。 悠を抱いたら、このモヤモヤは晴れるだろうか…… ソファに座り、ぼんやりと考える。 悠とは幾度となくセックスをした。 高校の時── 俺は同性しか好きになれない自分に悩み、親しくしてくれていた悠に相談をした。悠も自分と同じだと言ってくれ、初めていやらしい事を他人と共有した。初めて俺は自分以外の人間、悠に触れられて射精した。 友達を通して知り合った先輩だった悠と、たまに会ってはお互いを弄りあい欲を満たす。 でもそのうち悠は高校を卒業し、自然と会うこともなくなって離れていった。 悠は大学生になり一人暮らしを始め、風の噂で彼女だか彼氏だかが出来たと知った。その時ぽっかりと心に穴が空いたような気がしてしばらく元気が出なかったから、きっと俺は悠の事が好きだったんだと思う。 青春の淡い思い出── それからは、俺は普通に恋愛がしたくて人を好きになったりもしたけど思いは通じることはなく、段々と諦めが生まれてしまった。 ゲイ専用の出会い系なんかで知り合った人でも、優しくされたりすれば心を開く。でもそれはやっぱり体の繋がりだけで、恋人気分なのは俺だけだった。 ここまでくれば、俺は愛し愛され合う恋愛は出来ないんだと悟り、淡い願望を心の奥に閉じ込めた。 そんな時にまた悠と再会した。 全然変わってない悠に俺は嬉しくて、悠の店でよく飲むようになった。 「彼氏はいないの?」 何度目か会った時にそう聞かれ、そんなの出来るわけないじゃん、ときっぱり言ったら悠に笑われた。 「モテそうなのに……理想が高いのかな?」 そう言われた俺は少し馬鹿にされたような気がして面白くなかったのを覚えている。 「理想が高いとか、それ以前にゲイがまともな恋愛なんて出来ないだろ? そんな期待してねえよ。寂しい時に誰かを抱ければそれで満足だよ」 そう言うと悠は少し寂しそうな顔をしたけど、すぐに「そうだよな」と笑ってくれた。 「そしたら、今度から寂しくなったら俺を抱きなよ」 そう悠に言われて、俺たちは体を重ねるようになったんだっけ…… それも長くは続かなかったけど。あの時の悠は何を思ってそんな事を言ったのだろう。時折見せる寂しげな表情を思い出してはそんな風に考えていた。 「お待たせ…… 陸也もシャワーどうぞ」 バスローブ姿の悠が頬を赤らめ部屋に戻ってきた。

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