50 / 165
告白
「なんだよ、泣くなよ。ごめんな……」
俺を抱きしめ、首元で敦が囁く。
「……泣いてねえし! 」
俺がそう言うと敦は笑って「そうかそうか」と肩を叩いた。
……揶揄われてるのかな?
俺はさりげなく手で頬を拭い、話し始めた敦の顔をじっと見つめた。
「志音がここに来た頃さ、社長に念を押されたんだよ。志音には絶対手を出すなって。あ! 別に俺が手グセ悪いからってわけじゃねえよ? 色々あるから詮索すんなってさ……だから俺はとくに何も聞かずお前をずっと見守ってた。でも最近 志音が妙に色気づいちゃってさ、俺が手ぇ出さないでいたら誰かに持ってかれちゃうんじゃないかって思って。そしたらやけにイラつくし、俺、我慢ならなくなってきて」
普段は自信満々な敦が俺と目も合わせずらいのかそっぽを向きながらぼそぼそと言う。
「俺、志音の事が好きなんだよね」
真雪さんが敦にそんな事を言っていたのにも驚いたけど、そんな事より敦がそういう目で俺を見ていたなんて夢にも思ってなかったから、正直どう答えていいのかわからなかった。
俺は敦の事、好きだし。うん、大好きだよ。
でも、その「好き」は恋人とは違う。
敦は俺の家族みたいなもんだ。
それ以外なんて考えられない……
「えっと…… 」
俺がどうしていいか考えあぐねていると、ドアがバンと開き真雪さんが元気よく入ってきた。
「ちょっと! 敦まだ支度してなかったの? 何やってんのよ! 志音にくっ付いてないで早く支度なさい!」
真雪さんは敦の首根っこを捕まえ俺から離し、支度をさせた。
「志音は? 仕事ないわよね? さっさと帰りなさい! 今日は早く寝るのよ!……目の下に酷いクマ! 」
凄い勢いで真雪さんは俺らに捲し立て、敦と共に仕事に行ってしまった。
まるで嵐だ。
一人残された俺は、真雪さんの言う通り帰り支度を始める。
まっすぐ帰ろうと思ったけど、何となく一人になりたくなくて、知らず知らずのうちに悠さんのお店へ足が向かっていた。
一杯だけ……
そう思って店の扉を開けると、目の前に楽しそうに談笑している先生と悠さんの姿が見えた。
悠さんはカウンターに座る先生の目の前まで身体を乗り出し、先生の頬を撫でている。
……先生に向ける悠さんのあの優しい笑顔。
見たら胸がチクっとして、俺は開けた扉をまた閉めてしまった。
先生と悠さん、お似合いだった。
あんな悠さんの顔、初めて見た……
悠さんも先生の事、好きなのかな? てか、二人は付き合ってるのかな?
そうだよな、あんな親密そうなんだもん。歳も近そうだし付き合ってる可能性もあるよね。
色々考えてしまいまた泣きそうになりながら、俺は誰もいないマンションにひとり帰った。
ともだちにシェアしよう!