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タイミング
一人薄暗い部屋に帰る事も出来ずに、俺は結局悠さんの店の前から動けずにいた。
何やってんだか──
そして先程の親密そうな先生と悠さんの姿が頭に浮かび、店内に入る事もできなかった。
俺は店の入口の脇にしゃがみ込み、先生が出てくるのを待つことにした。
嫌だな、こういうの……
先生は優しいから、俺がこうしてれいば心配してくれて……きっと家まで送ってくれる。
俺はそれがわかってて、期待してここにいる。
我ながら浅ましいと思う。
どのくらい経ったんだろう。
やっぱりもう、帰ろう。いい加減自分のしている事が恥ずかしくなり立ち上がろうとすると目の前に人影が立った。顔を上げるとそこで不思議そうな顔をして立っていたのは敦だった。
「どした? 志音、こんなとこで……え? 泣いてんの?」
……また。
「泣いてねえよ。なんだよ!」
ここで敦と一緒にいるのを先生に見られたくなくて、出くわさないように敦を避け横に逃げた。
先生が出てきちゃう前に早くここから離れよう……
でもそんな俺の心中を知ってか知らずか、敦が俺の腕を掴み離してくれない。
「なんだよ! 離せっ! ……俺はもう帰るから!」
俺の抵抗虚しく敦に体を引き寄せられ、その強引さに先程のキスを思い出し悔しくて泣けてくる。
「やっぱり泣いてんじゃん……」
そう言いながら、敦は俺の顎をグイッと掴むと当たり前のように唇を重ねてきた。
最悪だ………
口付けられた瞬間に俺の目に飛び込んできたのは、楽しそうに笑いながら店から出てきた先生と悠さんだった。
涙が溢れる。
目が合ってしまった。
見られてしまった。
絶望感に覆われていると、いつの間にか先生が目の前まで来ていて敦に向かって話しかけてる。
ほんと最悪。
みっともない……涙が止まらない。
「君はモデルでタレントでもあるんだろ? 人目につくような場所でこんな事するべきじゃない。うちの生徒にも迷惑がかかるからやめてくれないか」
冷たい声で先生はそう言うと、ぐいっと敦から俺を引き離した。
うちの生徒……
ああ、そうだよな。俺だからじゃなくて……生徒だからか。
先生を見ると見たこともない怖い顔をしていた。
胸が苦しくなる。何で俺まっすぐ家に帰らなかったんだろう。こんなところ……こんな顔、見られたくなかった。
「志音、こんな時間にうろついてないで早く帰れ……悠、行くぞ」
冷たく俺にそう言うと、先生は悠さんと一緒に行ってしまった。
「………… 」
横で敦が俺に何か言ってるけど、よく聞こえなかった。
俺……
先生に嫌われちゃったかな。
あんな冷たい言い方されたの初めてだ。
先生の後ろ姿を目で追いながら涙を拭う。
先生……ごめん。
俺のこと、置いてかないでよ。
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