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返事

全身の力が抜けるような感覚に陥りながら、俺は先生の後ろ姿を見つめる。 隣では何かを言いたげな敦が俺の事を見つめているけど、その視線を無視して俺は自分のマンションへ帰ろうと足を進めた。 「……送るよ、志音。なぁ……今のって先生なの? 大丈夫? まずくなかった?」 敦が気にして俺に言うけど、もう遅いんだよ。 俺の学校の先生以前に、俺はあの人が好きなんだ…… あんなの見られたくなかった。 先生はどう思っただろうか? どう思うもなにも、素行の悪い生徒の一人としか見られていないのかもしれない。 気がつくと、敦が俺についてきている。 「なに? 一人で帰るからいいよ。もうほっといてくれる?」 敦が俺の腕を取ろうとするから、思いっきり振りほどいてやった。 「なあ、そんな怒るなよ……お願い。ちょっと待ってってば」 敦は少し遠慮がちにそう言って俺を引き留めようとする。 何だよ急に弱々しい声出しやがって…… 歩みを止めると、敦は泣きそうな顔で俺を見た。 俺の方が泣きたいよ…… 「志音……さっきの返事」 返事? 何のことか一瞬考えてしまった。そっか、さっき付き合わないかって聞かれたんだっけ。先生のことで頭がいっぱいで忘れていた。 ごめん。 ムリだよ…… 俺は敦とは付き合えない。 「ちゃんと聞かせてよ。俺、平気だからさ 」 俯きながら敦が言った。 平気だから……って、俺に断られるの、もうわかってんのか。 「ごめん。敦の事、俺大好きなんだ。でも俺にとって敦は大切な友人だし、先輩だし……家族なんだよ」 敦が俺の言葉を聞きながら微笑んでいる。 「敦の恋人にはなれないよ。ごめん……」 はっきりそう答えると、敦は ハハッと軽く笑った。 「だよな。わかってたよ。ごめんな……大丈夫。俺は踏ん切りついたから。これからも変わらずよろしくな」 「うん……」 さっさと一人で歩いていく敦は大きな声で「志音、ありがと」と言い、手を振りながら行ってしまった。そんな姿もやっぱりいつもの敦で、かっこいいなって思った。 踏ん切り……か。 俺にも踏ん切りをつける勇気が欲しい。

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