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寄り添って生きる
そう……俺じゃ駄目なんだ。
「駄目だ。志音はさ……違うんだよ」
悠が首を傾げて俺を見ている。
「何が違うんだか。好きなら向き合えよ……怖いのか?」
なんで悠はいつも何も言わないのに核心をつくことを言ってくるんだろう。俺にとって嫌なこともズケズケと言ってくれる。
……敵わない。
「……志音がさ、俺の事を好きって言うんだ。でもよ、志音は俺に父親を重ねてる。父親を見てるんだ……甘えられる、拠り所を求めてる」
「だから?」
呆れた顔で俺を見る悠に少し苛つく。そして軽くため息をついて悠は話し出した。
「志音が父親の愛情を知らないで育ってきたんなら、お前が親父になってやりゃぁいい。恋人にだってなればいい……志音がお前を求めてるんだから、それに応えてやりゃぁいいじゃん。なんで駄目なんだ?何がダメなんだ? お前だって志音のことが好きなんだろ?」
「………… 」
そんな簡単に……
いや、単純なことだ。
「ゲイがまともな恋愛なんて出来ない。期待もしてない。寂しい時に誰かを抱ければそれで満足だ……なんてお前言ってたじゃん? ……でも違ったな。やっと……だな」
悠が俯いて呟く。
あぁ、そんな事言ってたっけ。
「……俺、悠の事好きだったのにな」
思わず呟くと、悠の瞳から涙が溢れた。
悠の涙…
長い付き合いで 今初めて見たかもしれない。
「陸也だってずっと一人だったんだ。よかったじゃないか……志音と'家族'になればいい。誰かと寄り添って生きていくのもいいもんだぞ」
そう言って俺を見て微笑む悠。
天涯孤独な俺は、このままずっと一人でいるつもりでいた。
悠の頬に光る涙を指で拭ってやりながら、なんとなく「ありがとう」と伝えた。自然と出た言葉だった。
「なんかやっと肩の荷が下りた感じ」
そう言って悠は笑った。
悠はずっと俺を見ていてくれたんだな。
ほんとにありがとう……悠。
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