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踏ん切りをつける

学校に行く気になれなかった。 先生にあんなところを見られてしまって、どうやって学校に行ったらいいっていうんだ…… あの冷たい目が頭から離れない。 先生はあの後、悠さんの家に行ったのかな? くそっ……泣くもんか。 重たい足をなんとか運んで俺は教室まで来た。一日くらい休んだってよかったんだ。でもそれはしなかった。 教室に入るなり竜太君が俺のところに来る。 「おはよう、志音……」 ほら、竜太君が何か言いたげな顔して俺のことを見てるし。 また心配させちゃってるのが一目瞭然だった。 「大丈夫だよ。ありがとね竜太君」 言われる前に俺からそう言った。 竜太君は少し慌てた感じで俺の目が腫れてるのを指摘してきて「保健室行く?」なんて心配してくれた。 流石にもう保健室には……行けないや。 「僕一緒に行くよ? 保健室。少し休んで来なよ」 事情を知らない竜太君が俺のために一生懸命になってくれてる。 「ありがとう。でも大丈夫だよ、ほんと。保健室には行かないよ」 俺はできるだけ自然に竜太君に笑顔を向けた。 その日も、また次の日も、俺は普通に学校生活を送る。 先生に会いたいけど、会いに行く勇気が持てず悶々と毎日を過ごした。 竜太君も初めのうちは心配してよく声をかけてくれていたけど、今はそっとしておこうと思ったのか普通に接してくれている。 いつもありがとうね、竜太君。 仕事終わり、事務所でぼんやりしていると敦に声をかけられた。 「あんまりボーっとしてるとチューしちゃうぞ」 敦が笑いながら隣に座る。 「ほんと、最近どうした? ボーっとしてるというか、元気ないっつーか……とにかく社長も心配してたぞ……俺もだけど」 俺、そんなに顔に出てるのかな。指摘されるほど? ダメだな。 仕事に支障が出ちゃってる。 真雪さんに怒られるのも時間の問題だ。 「ごめん……心配かけてるね俺」 「いや、弱ってる志音も儚げで綺麗だよ」 敦に気持ちの悪いセリフを言われ思わず吹き出してしまった。 「悩み事だろ? 俺には話せない事?」 俺の事が好きだと言った奴に、恋の相談なんて出来ないよな。つい甘えて吐き出したくなるけど、ここはぐっと我慢した。 「何悩んでんのか知らねえけど、こんな毎日うだうだすんなら、事を進めちゃえばいいんじゃね? 良かれ悪かれ、スッキリすんじゃん。俺みたいにね」 そう言って敦が笑う。 事を進める……思いを告げる? 「……怖くねーの?」 「そりゃさ、怖いとも思ったけど……一度悶々としちゃったらもうダメなんだよな。どうにかハッキリさせないと前に進めないって思ったから。あ、勿論これは俺の場合な」 「………… 」 俺もこのままじゃダメだ。 「ありがと。俺も踏ん切りつけてくるわ…… 」 敦の言う通り、俺もこのままじゃ前に進めない。 明日は保健室に顔を出そう。 ちゃんともう一度、先生に気持ちを伝えよう。

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