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寂しい

もうすぐ文化祭が始まる── 俺はここのところ仕事が多かったのを理由に、文化祭の準備をサボっていた。 クラスのみんなも俺がモデルの仕事をしているのを知ってるし、みんないい奴らばかりで俺がサボっていてもあまりうるさく言ってくる事はなかった。でもちょっと申し訳ない気持ちにはなるよね。 そして文化祭二日前、俺は衣装担当のクラスメートに放課後呼び出された。 俺らのクラスはコスプレ喫茶店。仕事で休んでる間に決まったらしい。 コスプレと言っても衣装着るのはたったの四人。それしかコスプレしないんだったら、別に普通の喫茶店でいいんじゃね? って思ったけど、今まで協力的じゃなかった俺は意見する権利はないと思うから、そこのところは黙っていた。 俺が呼ばれたのは、そのコスプレ要員に俺が含まれていたから。 これも知らない間に決まっていた。当日の俺の役目はホストの格好をして客寄せをする事。楽そうで正直ラッキーって感じ。 「志音君、なかなか捕まらないから! 今日学校来てくれてよかったよ。早速だけどこれ、着てみてくれる?」 そう言って渡された少し派手目なそのスーツに袖を通す。 「凄いね! ぴったり。どう? 似合ってるかな? 教室、鏡ないから俺見えねーじゃん」 着てみたものの鏡がないから自分の様子がわからない。とりあえず着てみた感じはサイズ感からして俺にぴったりで問題はなさそうだ。 わざとちょっとだけ胸元を広く開け、教室内をウォーキングしてみる。衣装担当が俺に見惚れてポカンとしてるのが分かって面白かった。 「そうそう、昨日康介にも着せたんだけどさ、でも全然志音君の方がカッコいいね! あ! 康介もそれなりにカッコよかったけど、現役モデルには流石に負けるよな」 それを聞いて当日康介君も俺と同じホストの格好をするんだって事が分かった。 準備に参加してなかったとはいえ、何も知らなさすぎだろ…… 「ねぇ、あと二人は誰なの?」 学校に来ていない俺も悪いんだけど、あまり内容を知らされてなかったから、気になって聞いてみたんだ。 「えっとね、斉藤くんと渡瀬くんの二人は女装だよ。アイドル風の制服とメイドさん」 マジか…… 竜太君が女装すると聞き驚いた。竜太君はそういう事するタイプじゃないだろ。勝手に決められたんだろうな。似合うからとか調子のいいこと言われて…… 「でもね、渡瀬くんも全然捕まらなくてまだ衣装合わせしてないんだよ。彼は美術部の作品が完成してないみたいで、放課後全然会えないの。明日こそ捕まえないと……」 困った顔の衣装担当。それもそうだ。明日はもう文化祭前日なのだから。 そして明日は前夜祭がある筈。 「もし竜太君に会ったら衣装合わせするように伝えといてやるよ」 そう言って俺は着替え、家に帰った。 電気もついていない薄暗く寒々しい部屋に「ただいまぁ」 と独り言を言いながら靴を脱ぐ。 制服を脱ぎながら、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しキャップを開けた。 先生、今頃何してんのかな。 つい先日、保健室で俺は先生と思いが通じ合って晴れて付き合う事になったのだけど…… あれ? 夢だったのかな? ってそう思うくらい、あれから俺と先生は何にもなかった。 俺の気のせいじゃなければ、あの時プロポーズまでされたような気がするんだけど。 学校では、保健室に行っても普段と変わらず。かと言って、放課後デートもありゃしない。 仕事が終わってからでも俺の家に来たっていいんだけどな…… てかさ、先生からは何も行動してくれないってどうなの? そう思って何となく悔しいから、ここんところ俺は保健室にも行ってなかった。 なんだよ……寂しいじゃんか。

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