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前夜祭

文化祭の前日、この学校ではこの日にささやかながら前夜祭が行われる。主に文化部の展示とダンス部のステージ。竜太君は美術部で、少し前から部室に篭って何かを一生懸命制作していた。 きっとこの展示のために頑張ってたんだろうな。 体育館で生徒会からの挨拶と文化祭での注意事項の説明があった。 俺は何人かのクラスメートと一緒にその後のダンス部の発表をぼんやりと見て、終わってから一人で美術部の展示を見に行った。 展示場にはいくつかの作品が並んでいる。 前に何度か客に連れられて美術館なんかにも行ったことがあったけど、その度何の興味も湧いてこないからきっと俺には芸術の事はさっぱりわからないのだと思う。 教室に並ぶ数枚の絵。 景色だったり、静物画だったり…… そんな中、一際目立つ絵に目を奪われた。 なんだこれ、綺麗だ。 なんだかわからないけど、ふわーっと光が射し込んだ風なキラキラした絵……俺はどうしてもその絵に惹きつけられしまった。 描かれているものがよくわからない抽象的な絵。でもよく見るとそこに人の顔のシルエットのようなものが描かれているのが分かった。 しばらくその絵を見つめていると、急になにかが閃いてしまった。 この人の顔みたいに見えるもの。周さん、康介君……修斗さん……… 胸がドキドキしてくる。 俺は緊張しながらその絵の下に添えてある札を見る。そこには「渡瀬竜太」 という名前と作品のタイトル「すぐそこにある大切なもの」が記されていた。 ……俺だ! 見慣れた人達のシルエットの中に俺を見つけた。 竜太君が「大切なもの」と思う中に俺も含まれている。そのことに俺は嬉しくて涙が出そうになった。 俺はその絵を目に焼き付け、凄く幸せな気持ちで教室を出た。 クラスに戻り、少しお喋りをしてから下校する。 保健室……って思ったけど、相変わらず先生から何もないので悔しいからやっぱり寄らない。 下駄箱に行く途中で保健室の前を通るので なんとなく少し歩みを緩めると、中から楽しそうな先生と生徒の声が漏れ聞こえた。 なんだよ……俺の事はほったらかしでさ。 やっぱムカつく。 今夜は悠さんの店に寄って行こう。晩御飯もそこで済まそう。そう思って俺は一度部屋に帰って私服に着替えた。 もしかしたら……なんて期待はしてないけど、先生も店に来るかもしれないからちょっと大人っぽいお洒落な服を選ぶ。 ムカつくけどやっぱり俺は先生に会いたいんだ。

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