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ラブラブじゃない
「悠さんこんばんは」
俺は一番端のカウンター席に座る。
相変わらず客は少ない。そこが居心地がよくていい。
「志音久しぶりだね。元気だった?」
そう言って笑いかけてくれる悠さん。初めてこの店にきた時からこの人の優しい笑顔に俺は癒されている。
あれ?
「悠さん、髪色変えた?」
悠さんもモデルでもやってるんじゃないかってくらいカッコいいのに、また髪型が変わって一段といい男になっていた。そのイケメン具合にちょっと悔しく思ってしまうほど。
「わかる? ほらこれ、志音のだよ 」
悠さんは楽しそうにそう言って、俺に染髪剤のパッケージを見せてきた。
「うわっ! 懐かしい!」
そのパッケージには今とまるで違う髪色で、すまして写る俺がいた。
俺がモデルを始めて最初の頃の仕事。
この色、正直言って似合わなくて少し嫌だったんだよな……
「悠さん自分で染めたの? 上手いね。よく似合ってるよ」
悠さんの髪は綺麗なダークブラウンに染まってる。
俺は不器用だから自分でなんて絶対に無理だ。
「気分転換にね。それに今までは少し明るすぎたから。少しは年相応に落ち着かないと…… 」
そう言って笑う悠さん、何故だか少し寂しそうに見えた。
「志音、なんか元気ない? どうした?」
悠さんが寂しそうに見えたのは気のせいかな? 逆に俺のことを心配されてしまった。
「彼氏とラブラブ期なんじゃねぇの?」
「……悠さん。どこまで知ってるの?」
俺に彼氏ができたなんて話したっけ? 先生から聞いたのかな? 悠さんは何かを言いたげな顔をして俺を見ていた。
「俺が知ってるのは〜、うちの常連のエロ紳士が志音君の事が大好き! って事くらいかな?」
……エロ紳士って。でも先生が俺の事が大好きって?
「それ、俺の事が大好き!……ってのは甚だ疑問だな」
俺のことが大好きならこんなにほったらかしにしない。今だって一人で飲みになんか出かけてない……
俺の言葉に悠さんが目を丸くしてるけど、本当のことだ。
「なに? それで志音 元気ねぇの? なんだよ。そんな顔しちゃって。いい男が だ.い.な.し 」
悠さんは笑いながら俺の頬を撫でた。
「好きだって言ってくれたのにさ、全然俺の事かまってくんねぇの……きっと俺がガキだから……気の迷いか、そもそも好きじゃなかったんだ。同情で俺に付き合ってくれたんだよ」
なんだか飲み過ぎたかもしれない。愚痴ってる自分がすごく嫌だった。
悠さんはいつもは優しく話を聞いてくれるのに、俺を見てクスッと笑った。
「うん……そうだね、志音はまだ若いからね」
なんだよそれ。「そんなことないよ」って言ってもらいたかった。
自分で年の差を感じてるだけならまだしも、他人にまで現実を突きつけられるのはかなり凹む。
「しょうがねえじゃん! 俺だって好きで今高校生やってんじゃねえもん……」
どんどんいじけながら、卑屈になっていく。こんなのまさに子どもが駄々をこねてるのと同じだ。
俺は力の抜けた体をカウンターのテーブルにもたれ掛けさせ、悠さんに文句を言いながら「あぁ、これが絡み酒って言うのかな?」なんてぼんやりと思った。
優しく笑う悠さんにウダウダと愚痴をこぼしながら、頭の隅っこの冷静な部分が もうやめとけと俺に注意している。
「俺はさ、先生みたいに……大人じゃねーからさ……自信が……無いんだよ。どうやったら……対等に見……てもらえるか……なっ……て……あぁ眠い……悠さん……俺、めっちゃ眠い……」
多分俺、このまま酔っ払って寝ちゃったんだろうな。悠さんが何かを言いながら優しく頭を撫でてくれたのだけ俺はぼんやりと覚えていた。
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