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釣り合い

悠から電話が入る。 志音が悠の店に来ているらしい。 いつもは志音が来てるからって連絡をよこす事なんてなかったのに。どうしたのかと不安になった。 「志音がさぁ、面倒くさくなってるよ……どうすんの? 迎えに来てやってよ」 心配そうな悠の声。 「……なに? 志音酔ってるの?」 志音が人に心配される程酔っ払ってるのなんて見たことがない。それに志音には酒を出すなって言ったのに何やってんだよまったく…… 「大好きな彼が全然構ってくれない〜って嘆きながら酔い潰れてますけど?」 面白そうにそう言う悠に腹が立った。 「とりあえずもうすぐ爆睡モードに入っちゃうから早く来なさい」 「………… 」 悠はそれだけ言ってすぐに電話を切ってしまった。 は? なんだよ、構ってくれないだと? それは俺のセリフだよ。 志音が俺を避けてるんじゃないのかよ。 まったく…… 俺は上着を着て、急いで店に向かった。 店の扉を開けると、目に飛び込んできたのはカウンターに突っ伏して寝ている志音の姿。 「ほんとに寝てたんだ……」 少し呆れて悠に向かって呟く。 俺は志音から少し離れたカウンターに座り、悠を呼んだ。 「ついさっきまでは俺に向かってクダ巻いてたけどね、最後にはメソメソ泣きながら寝ちゃったよ」 「なに? お前の前で泣いたのかよ」 自分の好きな奴が他人に弱みを曝け出して泣いていたなんて聞かされて、俺は平常心でいられなかった。咄嗟に悠に向かって声を荒げてしまった自分に少し驚く。 「志音さぁ、'好きで高校生やってんじゃない' '先生は大人だから俺みたいな子どもとじゃ釣り合わないのかも' っていじけてたよ。先生は全然構ってくれないって。可愛い可愛い志音が自信をなくしてるぞ。かわいそうに」 悠は宥めるようにして俺の頭をガシガシと撫でた。 「……誰かさんも同じようなこと言って悩んでたよな? 大好きなのに、相手が若いから俺みたいなジジイで本当にいいのか、釣り合わないんじゃないかってね」 今度は馬鹿にしたように笑うから、俺も気が抜けてクスッと笑ってしまった。 「俺はジジイだなんて言ってねえし……にしても志音はそんな事で悩んでんのかよ。自信も何も俺はこれから先死ぬまで志音以外を好きになることなんてねえのに……」 「うわ! 超のろけ! そしてなんか地味に凹む。 なんだよ、可愛い志音君を慰めてあげてたんだから、俺の事も愛してよ」 悠は笑いながらそう言ってカウンター越しに俺に抱きついてきたから、ハイハイ……と俺もハグをする。悠のこともちゃんと愛してるよ、と軽口を叩き、俺は志音の分の会計も済ませた。 突っ伏して寝ている志音の後ろから耳元で声をかけると、少し顔を持ち上げ眠そうな目を擦りながら俺の顔を見た。 「……ん?せんせ?」 その呟いた顔が可愛くて愛おしくて、思わず後ろから抱きすくめてしまった。そして涙で濡れた頬にキスをする。 少し離れた所で悠が揶揄うようにヒューっと口笛を吹く。俺が睨むと肩を竦めて悠はカウンターの奥へ消えていった。 「ほら帰るぞ……立てる?」 俺が聞いても、ふんふんと頷くだけで動く気配がない。 しょうがねぇな…… 俺はなんとか志音を背中に背負い、悠の店を出た。 志音、デカいくせに軽いのな。 俺の耳元で志音の可愛い寝息が聞こえ、俺はなんだか幸せな気持ちになった。

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