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年の差

俺の部屋に……と思ったけど、明日も学校ある事を考え志音のマンションに向かった。 背中に伝わる幸せな温もりに、どうしても頬が緩む。 自分が子どもだからと言って悩む志音。 それを言ったら俺だって同じだ…… 俺の事が好きだと言われ舞い上がってしまったけど、この先高校を卒業してまた違った世界が広がっていく志音に、俺は置いてけぼりを食う気分になるかもしれない。 いや、実際に置いてかれて俺の元から離れていくかもしれない…… まだ未来のある、これから色んな事を経験していく若い志音には、こんな人生諦めて生きてきたような俺には不釣り合いなんじゃないかって……この先、俺は見捨てられるんじゃないかって不安が付きまとう。 俺は全然大人なんかじゃない。お前の事が好き過ぎて、怖いんだよ。 マンションに到着すると「おい、志音。起きろ」と志音を背負ったまま背中を揺らして声をかけた。 「マンションついたぞ。鍵開けてくれ」 俺の声に気が付いたのか、もぞもぞと俺の首元で志音の顔が動いた。 「はいよっ、 鍵」 思いの外元気よく背後から俺に鍵を手渡す志音。寝ているのかと思ったけど、もしかして起きていたのか? 随分はっきりした物言いに、調子がいいな……と少し可笑しく思った。 志音から鍵を受け取り部屋に到着。 電気をつけて、そのままソファへ志音を降ろした。 相変わらず綺麗に片付いた部屋、俺の部屋とは大違いだ。 「おい志音? 起きてんだろ? ……寝てんの?」 さっきは結構はっきりと喋ってたと思うんだけど。 ソファにぐったりと座り込んでる志音の前にしゃがみ込み顔を伺う。 「おーい、志音? 大丈夫か?……お前飲み過ぎなんだよ」 そう言おうとしたら、突然志音に抱きつかれてしまった。 「夢じゃなかった! なに? なんで先生ここにいんの?」 はにかんで笑う志音が可愛くて思わず吹き出す。 「目ぇ覚めたかよ! 悠のとこから俺がずっとおんぶして帰ったんだぞ」 やっと状況がわかった志音は途端に顔を赤らめ「ごめんなさい」と謝った。別に怒ってはいないけど、なにやら反省してる様子なので俺は少し調子に乗ってみる。 「じゃあ、疲れたから志音がマッサージして 」 そう言ってリビングの床にうつ伏せに寝転んだ。 「なに? 先生肩こり? 腰痛?……じじくせぇな 」 楽しそうに俺の腰辺りに跨る志音。 「ばぁか、お前おぶってここまで歩いたんだぞ。そりゃ疲れるわ」 そう言うとまたシュンとして、俺の肩を揉み始めた。 「……ごめんね、先生。迷惑かけてばっかで」 あまりに志音が可愛くて、そんな風に毎回謝られたらどんなことでも許せるな、とニヤける顔を俺は堪えた。 「迷惑だなんて思っちゃいないよ……俺が好きでやってんだ。気にすんなよ。それに志音軽いしどうってことない」 そう言って振り返ると、俺を涙目で見下ろす志音と目が合った。

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