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素直じゃない

文化祭が始まり、ばらばらとお客さんが来始める。 竜太君は教室の片隅の席でお客の似顔絵を描いていた。 人見知りが酷く、女装も全力で拒否していた竜太君を気遣った斉藤君が提案して、竜太君専用のコーナーが出来たらしい。 ウェイトレスをしている斉藤君を見てると、その対処は大正解だと実感。 さっきからスカート捲られたり、デートの誘いを受けたり……斉藤君は一人で大変そうだった。 「志音〜、 ちょっと客寄せしてきてよ」 そう頼まれた俺はプラカード状の看板を持たされ廊下に出た。少し歩いていると、前方に白衣姿が見えた。 あ……あれは高坂先生だ。 先生のところへ駆け寄ろうとしたら、先生のまわりを女の子が取り囲んでいるのに気が付いた。 なんだよ。なんかムカつく。 俺は先生を無視して横を通り過ぎ、一人で校舎をぐるっとまわり宣伝を終わらせた。 教室に戻ると休憩にしていいと言われたので、ちょうど竜太君の休憩時間も重なったから一緒に取ることにした。 休憩だからといって、流石にあんな姿の竜太君をひとりにはできないでしょ。 「どこか行きたいとこある? 俺がエスコートするよ」 廊下を歩きながら、楽しくてわざとキザに話しかけた。 少しだけ頬を染めて、竜太君は周さんのいる二年生のフロアに行きたいと俺に言った。 竜太君は俺とは違って素直で可愛いな。 途中、沢山の女の子達に囲まれた先生に再び遭遇する。先生は次から次へと女の子に写真を撮られていた。 ……なんだよ、写真なんか撮られやがって。断ればいいじゃん。てかあの白衣姿、絶対コスプレと勘違いされてるよね。 すると苦笑いしている先生と目が合った。「あっ」という顔をして女の子を軽くかわしながら俺の前に歩いて来る。 「どこの色男かと思ったら、愛しの志音くんじゃん」 「………… 」 へらへらっと笑う先生に、やっぱりイライラした気持ちが湧いてきて、どうしても無愛想になってしまった。 そして俺の横にいる竜太君の姿を見て驚愕した先生は、絶対に一人では出歩くなと念を押し、俺と先生で竜太君を挟むようにして二年のフロアに向かった。 周さんのクラスはお化け屋敷だった。 廊下で突っ立ってると、修斗さんが顔を出した。 「あ! 志音君、何それ凄え格好いいね! さすがモデルさんだ! 可愛い彼女も……って、ん? んー? え? その子って竜太君?」 修斗さんまで赤い顔をして竜太君を見てる。 面白いな。 「マジか! その可愛さ反則でしょ! 周どうした? もう会った? 今、中で客脅かしてるけど、呼んでこようか?」 興奮した修斗さんが言うけど、でもせっかくだから俺は竜太君と一緒にこのお化け屋敷を楽しみたくなった。 「せっかくだから中に入ろう!」 俺は怖がってあまり乗り気じゃない竜太君を誘ってお化け屋敷に入った。 楽しそうってのもあるけど、先生と一緒にいたくなかったから。 いや、いたくないわけじゃないんだけど…… 俺ばっか先生を好きなのがなんか嫌で、そう、単なるヤキモチなんだ。素直じゃないのもわかってる。 ……どうせ俺は素直じゃないんだ。

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