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不安になるんだ
教室に入るとそこは真っ暗闇。
うまく暗幕が張られていて、真っ暗なその教室は怖がりな竜太君を震え上がらせていた。
……てか、それにしても震えすぎじゃね?
俺の手を力一杯握りしめ、後ろからビクビクしながらついてくる竜太君。
ちょっと面白い。
わざと少し黙っていると、後ろから俺の手をぶんぶん振りながらボソボソと話しかけてくる。
「ねぇ……怖いんだけど」
「志音? ねぇってば……なんか喋ってよ」
「………… 」
その間も生温かい不気味な風が吹いたり、妙な叫び声が遠くから聞こえたりしている。その度に竜太君は「ひゃっ」とか「うわっ」とか小さく悲鳴を上げてお約束のように驚いていた。ここまで怖がってくれると脅かしがいがあるってもんだ。でも怖がりな竜太君はともかくとして、このお化け屋敷のクオリティは中々のものだった。
すると突然人の気配がして、俺の耳元で誰かが小声で囁いた。
「……竜太を置いてけ」
すぐにわかった。
声をかけてきたのは周さんだとわかったので、竜太君が何かに驚いて小さな悲鳴をあげた瞬間に手を離して俺は一人で出口に向かった。
教室を出ると、廊下で楽しそうに話してる修斗さんと先生。
なんだよ、まだいたのか。
一人で出てきた俺に気付いた修斗さんが「あれ? 竜太君は?」と聞いてきたので
「周さんが出てきたので、竜太君を渡してきました……学校でも仲良くて羨ましいですね。今頃イチャイチャしてんじゃないですか」
と、後半は先生の方を見てわざと嫌味っぽく言ってやった。目が合った先生は、やれやれといった顔をしてフフッと笑う。
「それじゃ、志音くん、僕らもそろそろ行こっか?」
そう言って先生は俺の腕をとり、修斗さんに手を振り歩き出した。
「……ちょっと先生、どこ行くの? 腕 離してよ……」
掴まれた腕が少し痛くて、ちょっと怖くなる。もしかして嫌味っぽく言ったの、先生怒っちゃったかな。でもすぐにスッと手を離してくれ、やっと俺の顔を見てくれた。
「今休憩中だろ? 志音 疲れた顔してるから保健室で休んでけよ……」
別に疲れてなんかいなかったけど、先生と一緒にいられるのが嬉しくて、俺は何も言わず先生の後をついて行った。
途中何度も色んな奴に呼び止められ、その度に写真を撮られたり電話番号を聞かれたり……
段々ウンザリしてくる。
「さすが志音くん、モテモテだね」
楽しそうに俺を見て笑うけど、この状況って絶対に先生のせいだ。
なんで白衣なんか着てウロチョロしてんだよ。この人絶対にわざと白衣着てうろついて、声かけられるの楽しんでんだ……
こういう軽い感じが また不安になるんだよ。
このルックスで、軽くて誰にでも優しい。スキンシップもちょっと多くて、学校内では色んな噂が飛び交っている。
俺だって最初はそんな軽そうな先生に軽口叩いて楽しんでいた。
保健室だってすごく居心地がいい。
だからきっと俺みたいに先生目当てに保健室に来る奴だっていっぱいいるはず。
そんなんだから、先生はゲイで気に入った生徒に次から次へと手を出している……なんて変な噂も立つんだよ。
ゲイで……ってところは合ってるけどさ、先生は次から次へと生徒に手を出すなんて、そんなわけはない。
……そうだよね? 俺だけだよね?
やっぱり不安だよ。
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