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どうして欲しい?
保健室に入ると先生は机から何やら取り出し、それを持って一旦廊下に出て行ってしまった。
「なに? それ」
先生の後ろ姿にそれは何かと問いかけると、チラッと手に持った木の札みたいな物を楽しげに俺に見せた。
「外出中の札」
そう言って先生は保健室のドアにその札を掛け、中に入って鍵をかける。
「志音のために俺がこの札作ったんだぞ」
「………… 」
「これならここでもイチャイチャできるだろ?」
そう言って悪戯っぽく先生は笑った。
「あんな風に嫌味言われちゃったらさ、イチャイチャしてやんないと嫌われちゃうもんな」
俺の目を見つめ近づいて来る先生にドキドキする。特別扱いしてもらえることが凄く嬉しい。
学校で、しかも今日は文化祭の真っ最中。他校の生徒も沢山来ていて、いくら鍵が掛かっているとはいえすぐそこでも話し声が聞こえてくるようなこんなシチュエーションで、先生は色っぽい目で俺を見つめ迫ってくる。
こんなのドキドキしないわけない……
どうしよう…… なんて焦っていたら、先生はそんな俺を通り越し窓際に向かった。
一ヶ所だけ開いていたカーテンを閉めると、俺の方を振り返り優しく微笑む。
「なに? なんか表情が硬いよ?」
近づいてきた先生は、今度は俺の頬にそっと触れた。
「さすが志音、何でも着こなすのな。廊下で見かけた時、カッコよすぎて見惚れたよ」
優しく俺の頬に触れている手が顎を捉え、そっと唇を奪われた。
触れるだけの軽いキス……
俺はなんだか緊張してしまい、力が抜けてベッドにすとんと腰掛けた。
「志音は俺にどうして欲しい?……どういう風にイチャイチャしようか……鍵かかってるから大丈夫だよ?」
そう言って俺の前にしゃがみ込み、下から覗き込むように俺を見た。
「なんで黙ってるの? 恥ずかしい? ……でも志音が俺を煽ったんだよ? 俺は我慢してたのに」
我慢てなんだよ……
「一応俺は先生だしな。それに大人だから」
なんだよ、大人だからって。
……その目
そんな目で見つめんなよ。
ジッと見られているとドキドキがおさまらない。どうして欲しい? なんて聞かれてもそんなの恥ずかしくって言えないじゃん。
「先生……俺なんか照れくさい」
……こんな気持ち初めてだ。どぎまぎしちゃって、なんかダメだ。
「志音、可愛い……」
先生が、ベッドに腰掛ける俺の足の間に割って入り腰に手を回してグッと抱きしめてくれる。
先生の頭が俺の胸にピタッとついてるから、ドキドキしてるのがわかってしまいそうで焦ってしまう。
俺はそんな先生の頭に手を置き、髪の毛を手で弄った。
「……先生、キスして。さっきみたいのじゃなくて……大人のキス、したい」
堪らず俺は強請るように言ってしまった。羞恥心が込み上げ顔が熱くなる。
「なに? ……志音は俺の前だとこんなに可愛くなっちゃうの?」
わざと先生は俺が恥ずかしくなるようなことを言う。
俺の横に座りなおした先生が俺の腰に手を回す。綺麗な顔が近付き、そっと唇を塞いだ。
なんでだろう……
それだけなのに涙がでた。
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