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高坂から見た文化祭
男子校の文化祭。
いつもは男だらけだけど、この日はここぞとばかりに女共がやってくる。
それだけでテンションが上がる野郎共……
思春期の男子高生は単純で可愛い──
浮かれているのはコイツらだけじゃなく自分も同じだった。志音がちゃんと登校しているか気になって気になって、俺はフラフラと校内をウロついていた。周りはまだ準備中でバタバタと忙しそう。
今日ばっかりは誰も保健室に遊びに来ないから正直暇を持て余す。しばらく校内を探索してから志音のいる一年生のフロアに向かった。
フロアをチラッと覗くと、遠くに志音の姿を見かけギョッとする。
なんだあれ?
ただでさえ目立つ志音なのに、あの格好は……
この後、女共に囲まれてる志音の姿が目に浮かんで気分が沈んだ。
俺の可愛い大事な志音君は、事もあろうにビシッとしたスーツに身を包み 髪までセットしてお洒落に決めている。一際目立つその姿に周りにいる同級生達がジャガイモに見えてくるくらい、普通の生徒との差は歴然だった。
最悪だ……
文化祭が始まってしまったらきっと志音の周りには人がいっぱい集まってくるのだろう。女にチヤホヤされて困った顔して照れながら話をするんだろう……
俺はまだ起こってもいない現実を勝手に妄想し、湧き上がる嫉妬心と虚しさに自信をなくして保健室へとぼとぼと一人帰った。
俺ってこんなにネガティヴだったか?
保健室に戻り、机に向かう。
引き出しから家から持ってきた木の札を取り出すと、そこに黒のマジックで『外出中』と書いた。
これがあれば、志音が来た時に使える……
昨晩志音の家から帰る道中、学生で仕事もしている志音とはなかなか一緒の時間を取るのも難しいんだよな、と思って、どうにか少しでも二人で過ごせる時間が取れないだろうかと考えこの方法を思いついた。
あんまり乱用は出来ないけど、たまになら……いいよな?
早速だけど、廊下に出て入り口ドア付近に外出中の札をかけてみた。
鍵を閉め、俺はベッドに横になる。
ちょっと昼寝……のつもりが睡魔に負けた俺はすぐに夢の中だった。
しばらくして、廊下が騒がしくなり目が覚めた。どうやらもう既に文化祭が始まっているらしい。
ぼんやりとコーヒーを淹れながら、廊下のドアにぶら下がる『外出中』の札を確認した。
さぁてと……ブラブラしてくるかな。
やっぱり志音のことがどうしようもなく気になってしまうから、見たくはないけどやっぱり見に行ってみよう。そう思って俺はすぐに廊下に出た。
しばらく歩くと早速女の子に声を掛けられる。俺はいつもの白衣だったからか、何かのコスプレと勘違いされたらしい。
「あの……お医者様なんですか ?どこのクラスの催し物? 私達今から遊びに行きますよ」
その女子グループは、俺の白衣を指で弄りながら上目遣いで話しかけてくる。そんな可愛子ぶっても俺は何も感じない。こういう可愛い子は自分の魅力をちゃんとわかっていてこんな行動を取るのだろう。こうすれば男は自分になびくのだと。
「いや、ごめんね。僕はこの学校の保健医なんだよね。生徒じゃないんだよ」
「えー? そうなの? 若いから先生に見えなーい。何やってるんですか? 暇なら案内してくださいよ」
そんな顔をしてボディータッチしてきたところで俺にはちっとも魅力を感じない。申し訳ないけど早くこの場から去りたかった。煩わしい女の子から逃れようと営業スマイルを特別サービスしながら少し離れる。
キャーキャー騒ぎ出す女達を適当にあしらい、早く志音の所に……と思ったら、明らかにツンツンと機嫌の悪そうな志音が俺の横を通り過ぎていった。
……志音?
後ろ姿を目で追いながら、俺は物凄く寂しい気持ちで一杯になった。
声くらいかけてくれてもいいのに……
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