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年甲斐もなく
志音、俺に気づかなかったのかな?
……いや、気が付くだろ。
女の子に囲まれてたから、きっと焼きもち妬いてくれたんだよな。
焼きもちは嬉しいけど、やっぱりツンツンされて無視されるのは寂しい。
さっきの志音の態度ですっかり意気消沈した俺は、一年生のところには行かずに二年生と三年生のフロアをうろついた。
三年生のフロアに行くまでに、なぜか俺のまわりには可愛い系の男子生徒が二人取り巻いていた。
「先生、僕が案内してあげるよ」
「一緒にクレープ食べようよ」
「………… 」
あからさまにおねだりをしてくる二人に俺は笑顔を振りまきながらはっきりと断る。
「おごらねえよ」
「ふふ……先生、またねぇ 」
全く……
やたらと懐いてくる保健室常連のような生徒達を躱しながら歩いていると見慣れた人物の姿が目に飛び込んできた。
「おーい、久しぶりだね」
和かに声をかけたのに、隣にいた陽介君に思いっきり睨まれてしまった。
「なに? 何しに来たんだよ」
陽介君は、一年生の康介君のお兄さん。
隣にいる赤い髪した可愛いのは、後ほど体育館でライブをやるバンドのボーカルの圭君。他校の生徒で、ここにいる陽介君の彼氏だ。
「圭くん、遊びに来たんだね。楽しんでる?」
俺が声をかけると陽介君は今にも殴りかかってくる勢いで俺から圭君を守るように遠ざける。
……えらい嫌われようだ。
まあ俺のしたことを考えたら当たり前の行動だからわからないでもない。
「なんだよ、なんもしないよ?」
陽介君は俺がゲイで手グセが悪いと思ってるから、どうにも俺の事が嫌いらしい。
大方間違ってはいないんだけど……そこまで嫌われるとちょっと悲しいな。
「圭くん、後でライブあるんでしょ? 頑張ってね、僕も見に行くから」
そう言うと「見に来るな!」と陽介君に睨まれ、俺はヘラヘラと笑うしかなかった。
「じゃ、バイバイ」
陽介君と圭君と別れ、俺は後で食べようとドーナツ屋に寄る。志音とも後で一緒に食べられるといいな、と思い幾つか買ってから一旦保健室に戻った。
ベッドの上に腰掛け、ぼんやりと志音の事を考える。
やっぱり一緒に歩きたいな。
志音の事を好きになって、俺は学校に来るのが楽しくなった。
今日は会えるかな? とか、今頃何の授業してんのかな? とか……
いやいや、大の大人がおかしいだろ? って思うけど、こういうドキドキする気持ちや浮き浮きと相手のことを思う気持ちは、正直いって俺は今まで経験した事がなかったから、新鮮なんだ。
こういうの、「年甲斐もなく」……って言うんだよな。
恥ずかしい。
あんまり美味くもないドーナツを一個、コーヒーで流し込んでからまた俺は一年生のフロアに向かって歩き出した。
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