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大切
廊下に出て歩き出すと、やっぱり女の子達に囲まれた。
面倒だなぁ……と小さく溜息を吐き、ハッと気がついた。
そうだよ、この白衣着てるからコスプレか何かだと思われて近付いてくるんだ。
……脱いでくりゃよかったな。
男子校の文化祭。
男目当てで浮かれたような他校の女子生徒も多いだろう。調子に乗って俺なんかに話しかけてくるような奴だっていてもおかしくはないわな。
しばらく歩くとまた違う女子グループに捕まり今度は写真攻撃にあう。順番にツーショットで写真を撮られ、撮り終えると写真を送りたいという口実で連絡先の交換をねだられた。
そんなことをしているうちに向こうから志音が歩いてくるのが見え、今度こそ素通りなんかさせまいと女の子たちをかわして慌てて志音の方へ向かった。
「は? なんだ? あの女の子は……」
よく見ると志音に肩を抱かれぴったりと寄り添うように歩いてる女の子の姿。途端に嫉妬心が湧き上がってくるのをなんとか抑え、なんでもない風を装って俺は志音に近付いた。
「どこの色男かと思ったら、愛しの志音くんじゃん」
志音に声をかけながらチラッとその女の子の顔を見る。
………?
見たことのない子の筈なのに、なんだろう……どこかで会ったことのあるような?
「え? もしかして竜太くん?」
俺に酷い嫉妬心を沸き起こさせた犯人はまさかの竜太君だった。
透き通るような肌の色。
セミロングの髪型。
化粧をしてないのに薄く色付いた艶っぽい唇。
漆黒の瞳はぱっちりとした二重瞼。
男受けしそうなその容姿も勿論、男の子としての可愛らしさもパーフェクトだ。
近くで見れば見るほど際立って見える、男の子とも女の子ともとれない中性的な姿はとても綺麗で可愛らしい。
これは一人でぼんやりと歩いていたらナンパ野郎の格好の餌食だ。
橘に会いに行くと言う竜太君に絶対に一人にならないように念を押し、とりあえず三人で二年生のフロアに向かった。
二年生のフロアにつくと、すぐに橘のクラスをみつけた。
橘のクラスはお化け屋敷。
俺のことを無視するようにさっさと志音は竜太君を連れてそのお化け屋敷に入ってしまったので、俺は一人廊下に取り残された。
「なに? センセー、志音君とおデート?」
ひょっこり顔を出し、俺に気安く話しかけてくるこいつは修斗君。
「うん、おデートしたかったんだけどフラれちゃったかな?」
俺はわざとらしく修斗君に言った。こいつは人の事よく見ていて侮れない。でも人の弱み握ってどうこうしようとするようなやつじゃないから問題はない。
「心配しなくても大丈夫だよ。周の事だから中で志音君から竜太君を奪うから。そのうち志音君は一人で出てくるよきっと」
そう言って笑ったと同時に、早速出口から志音が一人で出てきた。
「ほらね」
くすっと笑って「あれ? 竜太君は?」なんてわざとらしく志音に聞いてる。
にやけてる修斗君に向かって志音は不機嫌そうに橘に竜太君を渡したことと、二人の仲の良さを羨ましいと俺を横目に嫌みたらしく言い放った。
拗ねてるのが分かりやすくてもう可愛くってしょうがない。
そんな可愛い志音を強引に連れて、俺は保健室に戻った。
志音とイチャイチャするために外出中の札まで作ってきたのに、いざとなると緊張するな。
大の大人がなにやってんだか……
凄い大切だと思った相手と恋人同士になんてなったことがないから、正直どうしていいのか不安だらけだ。
自分の欲のまま触れていいのか躊躇われる。ましてや生徒だ。
触れたいのに触れちゃいけないような……
変な気分。
今目の前にいる志音もどことなく表情が固い。
目を潤ませて俺を見る志音がやっぱりどうしようもなく可愛いく思える。
……ちょっとだけ苛めたくなる。
キスをしただけで蕩けそうな顔をする志音に堪らなくなるのをどうにか抑え、今日のところは志音に気持ち良くなって満足してもらうことに徹することにした。
感情が昂ぶると涙を流す志音。
俺も志音のお陰で色んな感情が揺さぶられる。
さっきのもそうだ。
「志音……さっきみたいなのはやめてくれ。俺には強がったり試すようなことはしなくていい。ヤキモチは嬉しいけど、わざと知らんぷりされるのは……やっぱり辛い」
俺は正直に志音に言った。
俺もお前と一緒で不安なんだよ。わかってほしい。
だけど志音が大切なのには変わりない。
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