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友達と…
竜太君との電話に聞き耳を立ててた先生が「行ってきなよ」と言ってくれた。
せっかく誘ってもらったけど、やっと先生と二人きりになれたのに……
でも俺は友達からのこういう誘いは初めてで、竜太君に「よかったらおいで」と言われた時は凄く嬉しく思ってしまった。
「友達とワイワイやった事ないんだろ? せっかくの機会だ。俺はここにいるし少しくらい楽しんできなよ」
「……うん。でも、いいの?」
先生は、俺の気持ちを察してくれる。
そうなんだ。俺は友達なんていなかったから……こんな風に誘われるのなんて初めてだったから、俺のこの気持ちをわかってもらえてちょっと嬉しかった。
「圭君の家も志音と同じここのマンションだったんだな。さっき橘と竜太君を送ってきて驚いたよ。いやぁ焦ったわ……」
そう言って、先生は遅れてきた理由を教えてくれた。
学校で事故があって、周さんが手に怪我をしたから病院に連れて行ったんだって。その帰りに、ついでだからって圭さんちに送らされたらしい。
そのまま俺の部屋に一緒に帰るわけにはいかないから、一旦自分の家に戻って車を置いてきたのが少し遅れた理由。
そうだったんだ。慌てている先生を想像したらちょっと可笑しかった。
「少しだけ行ってみていい?」
俺がそう言うと「勿論」とにっこりと笑って頷いてくれる。
「すぐ戻るから……ありがとう」
そう言いながら、俺は先生の膝に乗りキスをした。
圭さんの部屋は501号室。ちょっと緊張しながらインターホンを押すと、笑顔の竜太君が迎えてくれた。
部屋の中ではすでにみんな食べたり飲んだりして盛り上がっていた。
圭さんとは以前エントランスでばったり会ったことがあったから初めてじゃなかったけど、ドラムの靖史さんと康介君のお兄さんの陽介さんは初めましてだ。
竜太君が二人を丁寧に紹介してくれた。
靖史さんも陽介さんも、気兼ねなく俺の緊張をほぐすように楽しく話してくれる。
圭さんの信じられないくらい高レベルな手料理を食べながら、みんなでお喋りを楽しんだ。
文化祭でのコスプレの話やライブの話、後夜祭のビンゴ大会で康介君がゲットした景品の話など……
友達、先輩、気を使ったり探ったりもなく、ただただ楽しくワイワイやる。
友達と一緒にワイワイやるのって凄くいいな。
それでもやっぱり一人にさせてしまっている先生が恋しくなってきてしまう。
今夜は先生に俺の手料理を振る舞うつもりでいた。手料理と言っても、俺はパスタくらいしか作れないけど……
少し残っていた圭さん特製の唐揚げをお土産にもらって、俺はお先に失礼することにした。
「ただいま!」
俺は玄関を開けて、急いで部屋に入る。
リビングの扉の前で、先生の「おかえり」の声が聞こえて凄く嬉しくなった。
いつも部屋に帰っても「ただいま」に返事なんてなかったから。
「先生、待たせてごめんね」
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