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夕食
「お? 志音、ご機嫌だね。楽しかったか?」
先生が優しい笑顔で聞いてくれる。
「うん、凄く楽しかった。ありがとう、先生」
初めて友達と賑やかにお喋りして、楽しかったし嬉しかった。
ソファに座った先生が両手を広げて俺を見る。
「………… 」
恥ずかしいけど、俺は素直に先生の胸に抱かれに行く。優しく受け止めてくれ、すっぽりと包まれる様に抱かれて心地が良い。
「先生? お腹すいたでしょ。簡単なのだけど俺が作るよ」
このままずっとこうしていたいけど、お腹がすいてるであろう先生のために俺は手料理をご馳走するんだ。俺のせいでお預け状態なんだ……待たせてしまってるから早く作ってやらないとね。
「ごめんね、俺圭さんちで少し食べてきちゃったんだ。でも、圭さん特製の唐揚げ残ってたからもらってきたよ。凄い美味しいから作ってる間つまんでて」
俺はそう言って、貰ってきた唐揚げを急いで皿に盛りテーブルへ持っていった。
キッチンに入り、まずはお湯を沸かす。
バスタを茹でていると先生もキッチンにやってくる。カウンターの前に座り、にこにこしながら俺を見た。
「なに? 緊張すんじゃん……」
あっちでゆっくりしてればいいのに。料理が得意なわけじゃないからこうやって見られているとどうしたって緊張してしまう。
「落ち着かないじゃん……あっち行ってなよ」
「さすがモデルだな。エプロン姿もサマになってる。やっぱり志音ってカッコいいんだな……」
「は?」
突然そんな事言うもんだから笑っちゃう。
「なに? 今頃気づいたの? 俺、かっこいいんだよ?」
「うん、知ってた」
先生が俺を見つめて笑ってる。照れ隠しのつもりで言ったのに、そんな風に見つめられたら恥ずかしくてドキドキしちゃうじゃんか。
「ねえ、何作ってくれるの? パスタだよね? 楽しみだな 」
先生の質問にペペロンチーノと答えると、凄い喜んでくれた。
好物なんだって。
これ、俺の得意料理。シンプルだけど美味いんだよね。よく作るからとりあえずは失敗しないと思ってこれにしたけど、好物だと言ってもらえて安心した。
フライパンにオリーブオイルと潰したニンニクを入れ火をつける。
ニンニクの香りが食欲を唆る。唐辛子も加え、茹で上がったパスタと茹で汁も適当に入れ、サッと煽る。あとは塩胡椒で味を整えるだけの簡単なもの。
今日は先生に振る舞うから、ベーコンとブロッコリーも加えてみた。一人で食べる時よりちょっとは見栄え良く。
「なぁ、料理してる志音……すげぇ唆るんだけど」
「………… 」
料理しているだけなのに、そんな熱のこもった視線を送らないでよ。
「ほら、出来たよ。テーブルに運んでよ。あったかいうちに食べようぜ……」
先生の視線にドギマギしながら、俺は完成したパスタを先生に手渡した。
「いただきます!」
両手を合わせて先生は元気に言うと、クルクルっとフォークに絡めてひと口食べた。
テーブルに並んで座り、先生が口にするのをジッと見る。美味しいって思ってくれるかな? 自分の作ったものを人に食べてもらうなんて初めてだから緊張した。
先生は俺を見つめたまま、フォークに絡まるパスタをゆっくりと口に入れる。先生の視線に俺は顔が熱くなるのがわかった。
なんだろ……エロい。
「先生? どう? 美味いかな?」
顔が火照るのを誤魔化しながら先生に聞いた。
「うん美味い! おかわり欲しいくらいだよ」
満面の笑みで先生が褒めてくれて、すごく嬉しかった。
先生が美味しそうに食べてくれるのを見て満足しながら、自分も食べ始める。
何口かもぐもぐしたところで、先生の視線に気づき顔を向けた。
「なに?」
「さっきお前……俺の食べてる口もと見て欲情しただろ」
ニヤッと笑い、顔を近づけ俺を見る先生に思わず視線を逸らす。
「……してないよ!」
ふふっと笑い、先生はそのまま無言で食べ続けた。
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