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ドライブ
俺と先生は着替えて支度をし、二人一緒に家を出る。
これから先生の家に行って車を取りに行き、そしてデートだ。
先生と初めてのデート──
「別にどこ行くって決めてないし」
そう言って、先生は行き先は教えてくれなかった。先生と一緒なら別にどこだっていいや……と思っているけど、先生の事だから本当は行き先くらいは決めているんだと思う。
俺の住んでいるマンションから先生の家までは、実は歩いて行けるような距離らしい。それでも面倒なのと時間が勿体無いという理由で先生はタクシーを捕まえた。
タクシーに乗ったら、本当に五分くらいで先生の家に着いて驚く。
「なんだ、本当に近いんだね。先生の家」
タクシーを降り、目の前のマンションを見上げた。
「今度先生の家にも泊まってみたいな……」
「ああ、別に構わないけど、志音の部屋みたいに広くねえぞ。ベッドもセミダブルで二人で寝るのには小せえし……」
初めて見る先生の住んでいるマンション。俺の住んでるマンションとあまり変わらない感じだけど、あまり人を入れたくないのかちょっと消極的な返事に、しつこく言うのはよそうと思った。
「うん、じゃ、今度遊びに来させてね」
マンションの裏に回り駐車場へ行く。一台の車の前に来ると、先生が俺のために助手席のドアを開けてくれた。一連の動作がスムーズでかっこいい。先生の動作にいちいちときめいてしまっている自分が可笑しかった。
「志音はどこか行きたいところある?」
少し走り出したところで先生に聞かれる。どこか行きたいところ? これといってとくに思い浮かばない。それに行き先決まってるんじゃないのかな? ちょっとズルいけど、初デートは先生に全部任せちゃってもいいよね。
「ん? 別に。俺、先生と一緒ならどこでも嬉しいから」
そう言って俺は先生の太腿に手を置いた。
「お前なぁ、なんて可愛いこと言うんだよ。このままラブホ行っちゃうぞ?」
俺の手の上に先生が手を重ね、ぎゅっと握る。
……まただ。
「ねえ先生? なんでいつも俺の事、可愛いって言うんだよ。可愛いなんて言われ慣れてないから、なんか違和感あるんだけど」
俺は仕事柄「かっこいい」ってのはよく言われるけど、可愛いなんて今まで言われたことは殆どない。
「そうか? なら志音は俺だけに可愛い顔を見せてんだな。自分で気付かない?」
そんなの気付くわけないし、よく意味がわからなかったから返事に困ってしまった。
「………… 」
「なんだよ。可愛いって言われるの嫌か?」
「……嫌、じゃない」
きっと先生以外の人からそんな事言われたら腹がたつと思う。先生から言われるのは嫌じゃないしちょっと嬉しいくらい。子ども扱いしてもらえると「甘えてもいいんだ」と安心できるから。
先生は運転しながら、片手で俺の頭を優しく撫でた。
「前にも言ったけど、俺の前では素直な志音でいいからな」
「じゃあさ、とくに希望がないなら、俺が行きたいところがあるんだけど……いい?」
信号待ちで先生は俺にそう言い、先生の太腿に乗せた俺の手の上にまた先生が手を置いた。
照れ臭くなってしまった俺は、先生に「うん」とだけ返事をして、窓の外に視線を逸らした。
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