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行き先は

先生の行きたいところって何処だろう。 俺の手を捕まえたまま、先生は黙って運転をする。 気がつくと車は高速道路に入っていた。 「ちょっと遠出になるからね。適当にサービスエリアで休憩しような」 そう言って先生は俺の手を擦り擦りと撫でる。 「先生? 危ないからちゃんと両手でハンドル持ってね」 運転しながら手を握ってくれるのは普段外でそういう事ができない分嬉しいのだけど、安全運転に越したことはないから俺は手を解くと先生の頬にキスをした。 「 ⁉︎……ちょっと! それの方が危ないでしょっ! もう……また可愛い事して!」 驚く先生に俺も調子に乗りすぎたと反省する。それにしてもそんなに慌てなくてもいいのに、先生だって可愛いところあるよな……と思って可笑しくなった。 しばらく走ってからサービスエリアに寄った。別に行楽シーズンでもないので然程混んでもなく、先生と並んで歩きブラブラとした。 学校以外で先生とこうやって過ごすのも新鮮だ。しかも先生の車でドライブだなんて。非日常な今の状態に俺は今更だけど気分が昂まる。 「先生? 俺、なんか浮き浮きしてきたよ。昼はどうすんの? ここで食ってく?」 地元から離れた開放感も手伝ってか、俺は少しはしゃぎながら先生の腕に自分の腕を絡ませた。 「いや、昼はこの先に美味い蕎麦屋があるんだよ。そこに連れて行ってやりたいからもう少し待ってろ」 「ねえねぇ、 連れて行ってやりたい……って先生の台詞になんだかキュンキュンするんだけど。ふふ……俺おかしいね 」 楽しくて、嬉しくてしょうがない。 地元から離れていることもあり、自分たちのことを周りは知らないんだと思ったらどんどん開放的な気分になってくる。そんな俺を見て先生は顔を赤くした。 「お前なぁ、腕にしがみつかれてるのも相当に恥ずかしいのに、そんな事言うなよ……無邪気すぎんだろ」 「別に揶揄ってるわけじゃないよ? 素直な感想」 俺が言うと、さりげなく先生は俺の腕から逃れていった。 ちぇっ…… 「志音が揶揄ってないのはわかってるんだけど、ダメだ。俺が恥ずかしくて悶死する…… 」 「結構照れ屋なんだな先生」 「俺が照れ屋なんじゃなくて、志音が大胆すぎんだよ……そろそろ行くぞ」 俺はコーヒーショップで先生の分のコーヒーを買って、車に戻った。 少し高速を走らせて、二つ目の出口で高速を降りる。 ちょっと田舎な景色を窓から眺め、のどかだなぁなんて思いながら、やっぱり先生が向かってる場所が分からず首を傾げた。 「ちょうどいい時間だな。腹減ってきた。さっき言ってた蕎麦屋、すぐそこなんだ」 先生が言った先に、それらしい蕎麦屋の看板が見える。昼を回って既に混み合ってるのか一台分の駐車スペースしか空いておらず、ギリギリそこに停め俺らは先生オススメの蕎麦屋に入った。 「なんか蕎麦なんて凄い久しぶりに食べるかも」 カウンターの席に案内され、先生と並んで座る。 狭い店内、隣の先生の肩がぶつかりそうだ。妙に近くて何かチョッカイを出したくなる。 ……やっぱり俺、嬉しくて今日は変なテンションかも。 ニタニタしながら先生の顔を覗いてたら怒られた。 「人の顔をにやにやして見るんじゃありません。志音は何にする? 俺は天ぷら蕎麦にするけど同じのでいいか?」 「ああ……俺はざる蕎麦がいい。多分天ぷらまで食べきれないと思うから」 蕎麦を待っている間、俺は先生に質問をした。 「なぁ先生? 先生の行きたいところって何処なの?」 先生の顔を見ると、なぜか少し困った顔をしている。 「あぁ、言ってなかったな。もうすぐ着くから……まぁ なんだ、さっさと用事済ませて引き返すから、期待しないで付き合ってくれな」 結局どこに行くのか教えてもらえずに、注文した蕎麦が運ばれてきて、二人で食べた。 「美味いだろ? 志音」 確かにオススメだけあって、凄く美味しかった。 「うん、蕎麦うまい!……先生の天ぷらもうまそう。一個頂戴」 「はぁ? 食いたいなら頼めばよかったじゃんか!」 「いや、さっきも言ったろ? 天ぷら食べきれないもん。一個くらいなら食べられるけど……」 そう言うと、先生は「しょうがねぇな」と言いながら、一尾しかない海老の天ぷらを俺のザルに乗っけてくれた。 先生は俺に甘い…… 「とっておきをくれてありがと」 俺は海老をひと口だけかじり、残りを先生の口元に持って行く。 「ひと口くれればいいよ。はい、あ〜ん」 先生は「はぁ?」って言いながらも、恥ずかしそうにしながら慌ててパクッと食べてくれた。 本当にこの人は俺に優しいな……

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