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頑張ろう

夕飯に行く前に一旦家に戻って荷物を置いて……部屋に入ったのも束の間、先生の雰囲気がいやらしくてエロモード全開。 嫌じゃないよ。 うん……嫌じゃない。 だけど俺は、好きな人にああやって求められるのに慣れてないから…… ドキドキしちゃってしょうがないんだ。 そして、おかしくなりそうな自分が正直少し怖かった── 夕食はどこに連れて行ってくれるんだろうと思っていたら、前に敦に連れて行ってもらったイタリアンの店だった。 そういえば敦と来た時、先生と一緒に来たいな、なんて思ったっけ。思わずにやけてると先生に「来た事あるのか?」と聞かれてしまった。 「うん、前に一度だけね……」 敦と来たという事は言わずにそう答える。きっとそんなこと言ったら先生は嫌だと思うから。 店内に入るとやっぱり奥の個室に案内された。このお店は個室になってるカップルシートも多いから、落ち着けていい。 テーブルに座ると、突然先生に手を握られた。 「今日は初めてのデートだったのに、ありがとうな。墓参りに付き合ってくれて」 「別にいいよ、買い物とかも楽しかったし。先生のご両親にも挨拶できたし。俺の方こそありがとう、先生」 正直言って驚いたのは事実だけど、それ以上に嬉しかったんだ。そう言うと、先生は俺の手の甲にチュッとキスをした。 「あ? 急にやめてよ先生。ドキッとするじゃんか!」 慌てて手を引っ込めると、先生はクスッと笑った。 順に運ばれてくる料理を堪能しながら、優しく先生が色々と話しかけてくる。 学校の話…… 友達の話…… 仕事の話…… 初めて先生に会った時も感じた事。 他の人から言われると、余計なお世話! なんて思ってしまうような事でも、先生から言われるとなぜか素直に話が出来る。 不思議だな。 調子に乗った俺は先生に少しだけ仕事の悩みを打ち明けはじめた。 真雪さんから最近言われるんだ。 今、凄くいい仕事も沢山もらえるようになって来てるし、敦みたいにテレビの方の仕事も少しずつ入れていったらどうだって…… でも俺は敦みたいに器用じゃないから、テレビなんて出ちゃいけない気がする。それに顔が知られすぎちゃうと先生ともこうやってデートし難くなっちゃうんじゃないかと思って躊躇ってしまう。仕事を選べるような身分じゃないのはわかっているんだけど、それでもやっぱり気乗りがしない。 俺はそんな話をダラダラと喋っていた。 「志音は別に有名になりたくてモデルやってるんじゃないのかな? 志音はそもそも何でモデルの仕事をやってるの?」 唐突に先生にそう聞かれた。 何で……? 真雪さんにスカウトされて、俺は嫌なことから逃げるためにモデルを始めたんだ。 そう…… 初めは別にやりたくてやったわけじゃなかった。 でもオーディションを受けたり、仕事をもらって撮影に行ったり、色んな人と出会って経験を積むうちに凄く仕事が楽しくなっていったんだ。 「……やりたくて始めた仕事じゃないけど、今は違うな。仕事楽しいし、この先ずっと続けたいって思える。……でもさ、敦みたいなタレントみたいな事はあんまりしたくない」 先生は黙って俺の話を聞いている。 「俺、ショーモデルとかのファッションの仕事が好き……でもさ、今度決まってる仕事でCMの仕事があるんだよね。俺、正直やりたくないんだ」 ジッと俺を見ていた先生が口を開いた。 「そうだな、俺もモデルの志音もかっこいいから好きだけど、ずっとこの仕事を続けたいって思っているなら、頂いた仕事はちゃんとやらないとだよな?」 「俺、かっこいい? CMとかテレビの仕事、先生は嫌じゃない?」 かっこいいと言われて嬉しくなる。それに少し不安だったこと、先生に思わず聞いてみたら「嫌じゃないよ」と笑ってくれた。 「誰よりも俺は志音の事、応援してるよ」 先生にそう言ってもらえ、俺はやる気が戻ってきた。 我ながら単純……好きな人に応援してもらえるのって凄い力になるんだな。 頑張ろ! 「先生、ありがとう。俺仕事ちゃんと頑張るね」 「学校もな」

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