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挨拶
食事を済ませ、少しほろ酔いの先生と一緒に移動する。次の目的地はお馴染みの悠さんの店だ。
二人で揃って悠さんのところに行くのは初めてだった。そしてまた、こうやって先生と並んで夜道を歩いてるのも新鮮でドキドキした。
手……繋ぎたいな。
でも、恥ずかしがって嫌がるだろうと思い諦める。歩いている先生の手を少しだけ見つめると、視線に気づいた先生と目が合った。
「手を繋ぐのは、ちょっと恥ずかしいかな……」
先生が照れ臭そうに笑う。思っていた事が伝わってちょっと嬉しい。
「わかってるよ」
俺がそう言うと、ちょこっとだけ……一瞬だったけど先生は手を繋いでくれた。
店に入ると満面の笑みで悠さんが迎えてくれた。
「やっと二人揃って来てくれたよ。いつぞやは誰かさんが酔いつぶれてたからね」
そうだった。
恥ずかしい……
以前俺は先生とのことで悠さんに迷惑をかけてしまっていたのを思い出した。俺をカウンターの端の席に座るよう促し、隣に先生が座った。
「お二人ともいつものでいいかな?」
「あのさ……俺たちちゃんと付き合う事になったから、一応報告」
お酒を作り始めていた悠さんが振り返りキョトンとしてから爆笑した。
「今さらなんだよ、改まって! そんなのわかってるって。よかったな。お幸せに」
悠さんはそんなこと言われなくても見た感じでちゃんとわかるしわざわざ改まって報告してくれて有難うと笑っている。先生はちょっと恥ずかしそうにしてるから俺まで顔が熱くなってしまった。
「一応さ、お前に後押しされたから。自分の気持ち認められたのも悠のお陰だし、ちゃんと報告したかったからさ。ありがとうな」
……そうだったんだ。
先生も俺のことで沢山悩んでくれたのだと思うと嬉しくて、目頭が熱くなった。
悠さんの方を見ると、あれ? 気のせいかな? 悠さんまで目が潤んで見えた。
悠さんと先生って、どんな関係なんだろう……
二人は古くからの友人、という以外にもなにか深い付き合いだったような気がしてならなかった。
悠さんと先生……
二人の雰囲気がなんだか独特に見えモヤモヤする。
今も見つめ合って近付いて何か話をしてる。
「………… 」
なんだよ! なんで二人してコソコソ喋ってんだよ。
「ちょっと! なに? 俺ほったらかし? なに二人でコソコソ喋ってんの?」
ほったらかしにされてることよりも、先生と悠さんの雰囲気がお似合い過ぎて嫉妬心が湧き上がって苛々する。
「いいよもう。俺お邪魔なら帰るから!」
そう言って立ち上がろうとしたら先生に腕を捕まれ、また椅子に座らされた。
「……邪魔なわけないじゃんか。拗ねるなよ」
そんな顔で先生に頭を撫でられ微笑まれたら俺はもう従うしかないじゃんか。
「志音さぁ、陸也と付き合うようになってから? 随分と可愛くなったよね? 今の志音の雰囲気だったら未成年だってなんとなくわかるわ」
悠さんにそう言われ、俺は先生の顔を見る。
「そう、お前の話をしてたんだよ。志音が子どもっぽくなったって」
先生が俺を見て笑った。
あれ? 馬鹿にされてんのかな?
「前は大人びててとっつきにくい雰囲気出してたけど、今は真逆だよね。同年代にもモテるでしょ? 陸也が気が気じゃないってさ」
体を乗り出して俺のことを見る悠さん。
「そんなに俺、違う?」
自分自身 全く自覚がない。
「きっと陸也に甘える事で本当の志音が出せるようになったんだよ。いい事だと思うよ。よかったね、志音」
そんな風に言われて物凄く照れ臭かった。
先生がトイレに立つと、悠さんは悪戯っぽく笑いながら俺に言った。
「陸也ね、志音の事が好きすぎて怖いだって。 あいつも可愛いところであるよね。ラブラブで羨ましいよ」
我慢できず、俺は気になっていた事を聞いてみた。
「ねぇ、悠さんと先生ってどんな関係なの?」
突然そんなことを聞く俺に戸惑ったのか、キョトンとした悠さんは不思議そうに首を傾げた。
「なに? 気になる?……大した関係じゃないよ。中学からの先輩後輩の仲。中学高校と同じ学校だったんだよ。腐れ縁で今に至ります」
中学からって……
そもそも先生達、今歳幾つなんだろう?
付き合い長いんだな。
「……これで満足? 志音にやきもち妬かれるなんて光栄だよ」
そう言って悠さんが笑ったところで先生がトイレから戻ってきた。
しばらく他愛ない話をしてから、俺と先生は店を出た。
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