102 / 165

愛情たっぷりだから

夕方事務所に到着し今後のスケジュールを確認した後、戻ってきた敦と少し雑談をしてから家に帰った。今日は夕飯は自分で作ると決めたから、途中でスーパーに寄った。俺がスーパーで買い物して帰ると言ったら、敦が食いついてきて一緒に行くと騒ぎ出し煩かった。どうにか誤魔化して、今は俺ひとり野菜のコーナーでトマトを選んでいる。 「………… 」 料理するって言ったって大したものが出来るわけではなく、俺が作れると言ったらこないだ作ったパスタか炒め物、サラダくらいだ。で、今はそのサラダに使うトマトを選ぼうとしてるんだけど…… なんだよ。 トマトだけでこんなに種類あったんだ…… あまりの種類の多さに戸惑いしばらくその棚を見つめてしまった。 「………?」 突然隣に立った奴に腕を叩かれる。誰かと思い顔を向けると、ニコッと笑う圭さんがいた。 「すげえイケメンがトマト選んでるって思ったら志音君だった! どうしたの? 買い物?」 楽しそうに笑う圭さんだけど、圭さんだってかなりのイケメンで目立ってる。買い物カゴの中は食材で一杯だった。 「へえ、志音君も料理するんだね」 圭さんに言われ、俺は勢いよく首を振った。 この人と比べたら俺の作るのなんて料理とは呼べないし…… 「いや、大したもん作れないんだけど、サラダくらいは……って思って。でもトマトだけでもこんなにあって、ちょっと迷ってました」 「ああ、そうだよな、最近トマト種類めっちゃ増えたよね。えっと、サラダならこれおすすめ……」 そう言って圭さんは赤赤とした大玉のトマトを俺に差し出す。 「これ、ゼリー状の部分も少なくて実崩れしにくいからサラダ向きだよ。でも、プチトマトもカラフルでいいよね。見栄えするし切らなくていいからプチトマトも楽だよ」 ……だな。 「こっちのこれは、パスタのソース向き」 圭さんってあれ? 料理人だったかな? 「圭さん、凄いですね。さすがだぁ」 「いやいや……料理始めたらさ、楽しくなっちゃって。美味いって食べてくれる奴がいるとさ、嬉しいじゃん? 俺、褒められると頑張っちゃうタイプだから 」 少し照れ臭そうに笑う圭さんはめちゃくちゃ可愛いかった。 そうだよな、俺も先生に褒められて凄く嬉しかった。 「圭さん、それ凄くわかります! 俺もそう」 喜んで食べてくれる人がいるから「作ろう」って思えるんだよね。俺一人だったら面倒で料理なんて滅多にやらないもんな。 それから各々買い物を済ませて、圭さんと一緒にマンションに帰った。 「ありがとうございました。 助かりました」 「じゃ、またね」 圭さんとエレベーターで別れ、俺は自分の部屋に入る。 キッチンに行き、買い物してきた袋をどさっと置いてひとまず軽く床の埃取りをして掃除を済ませた。 「さっ、準備始めるか…… 」 俺はいつものエプロンを着用しキッチンに立つ。 本日のメニューは…… 肉野菜炒めと、豆腐とワカメの味噌汁。あとサラダ。 それだけ。 あと、つまみに焼き鳥を買ってきた。これはチンして温めるだけだ。 俺の料理のレベルなんてこんなもんだよ。でも、愛情はたっぷり込めるからいいよね? 喜んでくれるよね?

ともだちにシェアしよう!