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幸せなひととき

サラダを作り、炒め物の下ごしらえをしていると部屋のインターホンが鳴った。 玄関に入ってくるなり、先生は俺をふわりと抱きしめ軽くキスをする。 「……志音、お疲れ様」 そう言った先生の顔がやっぱりカッコよくて、俺はまたドキドキした。 「そのエプロン姿、たまんないね。エプロン姿でさ、とびっきりの笑顔でさ、お帰りなさいなんて言われた日にゃもう……」 「あ、お帰りなさいって言って欲しかった? ごめんね、気が利かなくて」 捲し立てるように話す先生はちょっといつもよりテンションが高い。学校ではこんな姿絶対に見せない。 俺は冷蔵庫から冷えたグラスとビールを取り出し先生のところへ持っていく。 ソファに座った先生が、グラスを掲げて「注いでよ」と言うので、隣に座ってお酌をした。 「先生、体育祭お疲れ様でした」 そう言いながらビールを注いでやると、先生は嬉しそうに半分くらいを一気に飲んだ。 「飯まだでしょ? 俺今つくってるからさ、先生食べてよ。もう少し待っててね」 俺はキッチンに戻り、肉と野菜を炒めていると先生も来てカウンターに座る。頬杖をつきながら、俺の事をジッと見てるから落ち着かなかった。 「なんか俺、幸せだなぁ。こうやってさ、頼んでもいないのに愛しい人が俺のために飯作ってくれてさ。しかもその愛しい人が最高級にいい男でさ……俺、大丈夫かなぁ。突然ぽっくり死んだりしないかなぁ」 先生の言い分に思わず吹き出してしまった。 「何言ってんの? 変な先生。もしかしてまだ年の差とか気にしてんの?……大丈夫だよ。先生 若くてカッコいいよ」 俺の言葉にため息をつきながら先生が続ける。 「体育祭でさ、若さ溢れる生徒たちを見てたら俺、オッさんだなぁって思ったわけよ」 「あ! 体育祭どうだった? 練習であんなに燃えてたんだから、本番もやっぱり凄いの? 何組勝ったの?」 先生の自虐話が長引くのは嫌だったから、さりげなく話題を逸らした。 「ああ、大接戦で青が勝ったかな……そうそう、青が勝っちゃったんだよねぇ……紅組惜しかったんだよな」 なんかボソボソと先生が独り言のように話す。 そんな体育祭の話をしてるうちに肉野菜炒めが完成した。 豆腐とわかめの味噌汁も簡単に作り、予め作っておいたサラダと一緒にテーブルに出した。焼き鳥も忘れずにチンして出来上がり。 「こんなもんしか出来ないけど。お待たせ。食べよ」 ご飯をよそって、先生とテレビを見ながら夕飯を食べた。 ……うん。 幸せだね。こういうの。 先生は前回同様に、美味しい美味しいと言ってもりもり食べてくれる。 本当に嬉しい。 今日買い物してた時に圭さんに偶然会って一緒に買い物をした事を先生に話した。 圭さんも、美味しいと言って喜んで食べてくれる人がいるから頑張っちゃうんだと言ってたことを教え、俺も同じように思ったと話すと、これからも楽しみだなあ、と先生が優しく笑ってくれた。

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