「……志音？」 カーテンの向こうから遠慮がちな先生の声がするけど……無視。 「なぁ、志音ってば……」 「………… 」 無視してたら突然先生が俺のベッドに入ってきて驚いてしまった。 「なんだよ！ 来んなよ！」 先生の顔すら見たくなくて俺は背中を向ける。そんな俺の背中を先生はギュッと抱くから胸が苦しくなった。 「ちゃんと話、聞けよ……別に竜太君とデートしたかったわけじゃないよ」 「……じゃぁ、なんでだよ。去年だって修斗さんとデートしたんだろ？ なんだよ、先生のくせにこんなバカみたいなのに参加しやがって。おかしいだろ？」 納得がいかないのと、俺の知らない過去の事を聞かされるのが嫌だった。カッとなって俺は先生の方を向く。先生は事もあろうに俺にキスしようと近付いてきたから、俺は顔を背けた。 「橘の様子見て、今年は竜太君だってわかったからさ、少しでも竜太君の知ってる奴が選択肢にいれば安心だろ？ 橘は紅組だし陽介君が青組にいたからさ、それ以外に賭けてやれば……って思ってさ」 「………… 」 「それに橘を揶揄うの、面白いんだよ 」 イタズラっぽく笑う先生。デートに興味があったからじゃなく、竜太君のため？ 「去年は？ 修斗さん、かっこいいもんね。俺とまだ出会ってなかったしさ……」 「だからさぁ、この学校のこういうのっておかしいだろ？ 俺みたいのがエントリーしてれば、何も知らないで選ばれた一年生も万が一の時選びやすいと思わない？ 一応保健の先生だし。知らない先輩選ぶよりいいだろ。一年の事思って俺は保険としてエントリーしてやってんだよ」 「……でも楽しんでんじゃん」 やっぱり納得できそうで、できない。でも過去のことを責めたってしょうがないのはわかってる。 「去年の修斗くんはさ、一人に絞れないって言って俺も選ばれただけで、軽くお茶して買い物しただけだよ。修斗くんみたいにメンタル強くてお気楽な奴ばっかなら俺がエントリーする必要はないと思うけどね……」 「……それでも嫌だ」 どんな理由でも、やっぱり先生が俺以外の奴に優しくしたり気にかけたりするのは嫌だった。ヤキモチ上等。嫌なものは嫌なんだ。 「……ごめんね。志音。もうしない。許して」 先生は両手で俺の頭を包み込み、頬に軽くキスをした。 「……志音、唇にキス、していい？」 この人は俺のなんだ……俺は黙って目を瞑る。 「傷付けてごめんね。俺が好きなのは志音だけだよ。許して……」 先生はそう優しく言ってから、俺に唇を重ねた。 ゆっくりと先生の舌が入ってきて、俺の中をぐるりと舐る。 俺はそんな先生の舌を追いかけ絡め取るように舌を這わした。 キスだけで体が疼いてしょうがない。 「あ……ん、も……もう、んっ……だめ、 先生……だめ……やっ……」 全体重をかけるように押さえつけてきた先生から逃れようと体を攀じるけどビクともしない。 「いいよ、外出中の札出したし…… 」 そういう事じゃない！ 先生の手が俺の胸の辺りを撫でる。 「やっ！……先生……キスでごまかされないんだから！……俺、んっ……怒ってんだからね……やめっ……離せっ 」 やっと先生の体から抜け出し、俺は先生を睨んだ。 そういう雰囲気にして誤魔化そうとするなんて腹が立つ。 「なんだよ。キスしてくれたじゃん。許してくれたんだろ？」 「キスはしたけど、別に許してないし！ 軽率な先生に怒ってんの俺は！」 俺は大袈裟にプイッと顔を背けた。 「ふざけんな！ 帰るっ！」 勢いって怖い。 引っ込みつかなくなるってこういう事を言うんだな。 キスした時が許してあげるいいタイミングだったはずなのにな…… ぼんやりと後悔しながら、とりあえず俺は教室に戻った。 でも戻るにしても中途半端な時間だ。俺は教室に戻るのはやめて屋上に移動する。奥のベンチに横になり、ぼんやりと空を眺めているといつの間にやら横に修斗さんが立っていた。 上から俺の顔を覗き込む修斗さん。 ぼんやりしていたから、少し驚いてしまった。 「……びっくりした」 にこにこした修斗さんが首を傾げる。 「保健室で寝てたんじゃないの？ また寝るなら保健室いればいいのに……」 いたくないから出てきたんだし。 「高坂先生と二人でいたくなかったから」 不貞腐れてそう呟くと修斗さんは笑った。 「あの先生ね、そうだよねぇ。あんなとこで寝てたら狙われそうだよね」 「………… 」 俺と先生が付き合ってるなんて知る由もない修斗さんが続けて話す。 「でも大丈夫だよ。あの先生、手が早そうに見えるけど生徒には手、ださないよ。軽くてチャラいけど、そういうのちゃんとしてる人だと思うよ」 軽くてチャラそうな修斗さんが説得力のない事を言っている。 いや、俺以外に手を出されちゃ困るし。 「今日は風あるから、昼寝すんなら保健室の方がいいって。風邪ひいてもしらないよ」 それだけ言うと、修斗さんは屋上から出て行ってしまった。 修斗さんこそ、何やってたんだろう？ また一人でポツンとベンチに座る。 そうだよな。 寒いし、風邪ひくといけないし？ 保健室、行ってやってもいいかな……