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高坂の心境
せっかく志音が保健室に来たのに、今日は朝からずっと修斗君が入り浸っている。挙げ句の果てに体育祭の賭けに俺も参加した事を暴露された。
去年だけならまだしも、今年も参加したことに志音は凄く怒ってしまった。言葉には出してないけど、志音の態度を見ればそんなの一目瞭然だった。
別にデートがしたくて参加したわけじゃないんだけど……そうだよな。
嫌に決まってる。
ゴメンね志音……
志音がベッドに篭りしばらくしたら修斗君が出て行ったから、保健室のドアに外出中の札をかける。ドアを施錠してから志音の寝ているベッドに俺は向かった。
声をかけても無視される。向こうを向いて寝ている志音の背中を抱くように俺もベッドに入った。
「なんだよ! 来んなよ!」
案の定、思いっきり怒鳴られる。
「ちゃんと話、聞けよ……別に竜太君とデートしたかったわけじゃないよ」
全然俺の顔を見てくれないから、志音の肩を掴み無理矢理俺の方を向かせた。
志音に参加した理由をちゃんと説明して、許して貰えると思ってたんだ。
「……それでも嫌だ」
可愛く拗ねる志音にキスをしようとするも避けられる。謝りながら、それでも両手で志音の頭を包み込み頬に軽くキスをした。
「……志音、唇にキス、していい?」
そう聞くと、黙って目を瞑るから唇を重ねた。
このキスで許してもらえたと思ったのに……
許していない、軽率な行動に怒っているんだと怒鳴って志音は出て行ってしまった。
……志音の言う通りだ。
許して貰えると思ってた自分の甘さに腹が立った。
一人になった保健室で、志音の言ったことを考える。考えれば考えるほど気分が沈んでいった。
志音はもうここには戻ってはこないだろう。それでも俺は外出中の札を外して鍵も開けておいた。
「はあ……」
どうにもやる気が失せてしまいベッドに横になる。そのままぼーっとしていたら、保健室に誰かが入ってきた。
もう、勝手にどうぞ。どうせサボりだろ……
「いつまで寝てんの? 俺が寝るからどいてよ」
志音が戻ってきてくれた。俺の大好きな声……怒ってる声でも大好き。
「……ごめんな」
俺には謝ることしかできない。言い訳、弁解のしようがない。圧倒的に俺が悪いのはわかっていたから……
志音にベッドを譲り、俺は机に向かった。
志音と一緒にいられないなんて考えられない。
こんな事で喧嘩別れなんてバカバカしすぎる……
絶対に許してもらわないと……
不意に志音に呼ばれた。まさか呼ばれるとは思ってなかったから、思わず志音の元へ慌てて走った。我ながらこの反応速度、どれだけ必死なんだよって今になってみると笑ってしまう。でも俺は許してもらいたくて必死だったんだ。
どうしたら許してもらえる?
「別れる……以外なら俺は何でも言うこと聞くから、許して」
志音を失いたくない……
ごめん、ごめん……志音。
どんどん悪い方へと考えが巡ってしまう。
志音がそっと俺の頬に口付けてくれた。
「今日も俺んち来て。泊まってって。今夜だけでいいから先生を俺の好きにさせて」
志音の表情が少し柔らかくなった。
よかった……
「わかった。仕事終わったらすぐに部屋に行くから……待っててね」
俺も志音の額にそっとキスをする。
心底安堵し、保健室を出て行く志音の背中を見つめながら俺はまたベッドに横になり、ほっとしてしばらそのままく眠ってしまった。
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