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ごめん

学校が終わり、仕事もさっさと済ませて志音の家に向かう。 途中で花でも買って行こうか……と思ったけど、ここは花ではなくて少し上質なワインにしようと考え直し、近くの酒屋に寄った。 酒屋に入ると見慣れた後ろ姿が見える。 このタイミングの悪さ…… きっと行き先が一緒だ。 俺はその後ろ姿を無視することも出来ず、しょうがなく声をかけた。 「何してんの? お買い物?」 振り向くその顔は俺を見るなり不機嫌オーラ全開になった。 「……なに? 先生こんなとこで。見りゃわかるでしょう? 買い物中だよ」 思った通りの陽介君の反応。思いっきり睨まれてしまった。 高校生のくせに酒屋で酒を物色中かよ。 まあ、私服だし? 今日はこじらせたくないし早く志音の所に向かいたいから、スルーしてやる。 「僕もちょっとお買い物。陽介くん、お先にどうぞ 」 既に何本かカゴに入れてたから、さっさと行ってくれ……と言わんばかりに陽介君から後退り笑顔を向けると、怪訝な顔をして俺を見る。 「ついて来られちゃたまんないから、先生が先行けよ」 もう! 面倒くせぇなぁ…… 「陽介くんが圭くんちに行くのを僕は別についてかないし、そもそもこないだ橘と竜太くんを圭くんのマンションまで送ったんだから、僕だって圭くんの家知ってんだよ。そんなに警戒しないでよ」 俺がそう言うと、陽介君はそっか!って顔をして会計に向かった。 まったく…… 逆に俺の行き先がバレるのが困るんだよ。 見つかったら陽介君に何言われるか…… 「これから圭くんち?」 陽介君の後ろ姿にそう聞くと、怖い顔で振り返り「そうだけど? なにか?」とまた睨んでくる。 ……もう、どんだけ俺の事嫌いなんだよ。 本当にマンションで鉢合わせたらたまったもんじゃない。 陽介君とは少し時間をずらして志音の家に向かうことにした。 遅くなっちゃうのは仕方がない。 いっそのこと志音と付き合っているという事をバラして、一緒にさっさと向かってもいいかな? なんて思ったけど、やっぱりダメだ。 志音と付き合ってるなんて知ったら何を言われる事やら…… とりあえず、ワインを選びながら陽介君が店から出て行くのを待った。 「…先生、じゃあね」 やっと会計を済ませた陽介君は頭の中が圭君でいっぱいになってきたのか、少しだけ機嫌がよくなったように見えた。 俺も選んだワインをレジに持っていき会計を済ますと、店の外に出た。 陽介君はもうだいぶ進んだよな? 俺も追いつかないよう、ゆっくりと歩き出す。 ……焦れったいな。 気持ちは早く志音に会いたくて走っていきたいのに、なんでこんなゆっくりと歩かなきゃなんねぇんだよ。 やっとの思いで志音の待つマンションまで辿り着いた。 注意深くまわりを見るも、陽介君はもうとっくに入ったようで姿は見えない。 ホッとして志音の部屋のインターホンを鳴らした。 無言で扉が開き、俺はエントランスに入る。 ……まだ怒ってるのかな。 玄関のチャイムを鳴らすとすぐに志音が顔を出し俺に飛びつく。 「先生っ、遅いから……遅いから来てくれないかと思った……よかった」 消え入りそうな声で志音がそう言う。 「ごめん、少し遅くなった。ごめんな……」 遅くなった事だけでなく、色んな事に思いを巡らせ俺は「ごめん…」と志音を抱きしめた。

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