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好きにさせろよ 形勢逆転
今日は買い物をしてから帰った。
家に来てくれる先生のためにビーフシチューを作る予定。
早く来ないかな……
でもさ、先生なかなか来ねえの。ビーフシチューもとっくに出来上がってる。
すぐ行くって言ってくれたよな?
何してるんだろう……
もしかしたら俺のこと、面倒くさいって思ったかな? 男のくせに、浮気でもないのにあんな事くらいで怒っちゃってさ…… 学校でのことを思い返して気分が沈む。
自分が悪いのに散々当たり散らして、挙句に俺の言う事を聞けって言っちゃった。
見苦しいガキの焼きもち……
プリプリ怒ったから、やっぱりうんざりしちゃったのかもしれないな。
……来るって言ったけど、気が変わって先生帰っちゃったかな。
そうだよ、来ないかもしれない……
悪い方、悪い方へと考えていたところに、インターホンが鳴った。
ちゃんと来てくれた。よかった──
ちゃんとごめんなさいを言えてなかったから。
「俺……ゴメンね先生。ガキみたいに拗ねてばっかで……なんか……俺、ほんと嫌だ……」
ごめん……
許して、先生。
でも、先生怒ってないって言って後ろから優しく抱きしめてくれた。
先生の温もり……失いたくないって思ったら、泣けてきた。
それでも、こんな俺だけど、先生は優しく安心させてくれる言葉をかけてくれる。
包み込んでくれる。
……ありがとう。先生。仲直り、出来たよね。
「今日は何を作ってくれたの?」
お土産に少し高級なワインを持ってきてくれた先生に聞かれた。
「ビーフシチューだよ。先生お腹すいた? 俺の料理食べてくれる?」
「食べるに決まってんだろ。腹減ったよ。食べさせて 」
いつもの調子で話す先生。
美味しいって言ってくれるかな?
このワインは少し冷えてる方がおいしいんだよな。そう思い俺は冷蔵庫にひとまずしまいにいった。
ビールとグラスを持って先生の隣に座り食事にする。
先生は大袈裟なくらいのリアクションで、美味しいって言って喜んで食べてくれてる。
些細なことだけど、凄く幸せに感じる。これからも毎日こんな気持ちで過ごせるといいいな。
途中でワインも出して、二人で乾杯をして飲み始める。今日は先生、何も言わない。俺は控えめに、先生に付き合うようにして少しだけ飲んだ。
しばらくすると俺のことをじっと見る先生。
もう腹いっぱいかな?
「なに? 先生。もうご馳走様?」
「うん。今日は俺、志音に何されちゃうのかな〜って思ってさ」
色気のある瞳で見つめられ、先生に頬を撫でられる。
ドキドキする。
好きにさせてと言ったこと、先生ちゃんと覚えていたんだ。
そんなに見つめないでほしい。
恥ずかしい……
ああ言ったけど、俺は先生とこうして二人で過ごせるだけで十分だった。ちょっと調子に乗って言ってしまっただけだから……
それなのに先生は俺の事を好きにしろって言ってくる。
「あ……いや、いいんだ。あの時先生の優しさにちょっと甘えて言ってみただけだから。ごめんね。ありがとう」
「ふぅん、俺の優しさにつけ込んだんだ……ならさぁ、今日は俺の好きなようにさせてもらうかな?……いいだろ? 志音 」
ギクリとした。そんなつもりはなかったのに、先生は気を悪くしてしまったのかと不安になった。
先生、怒っちゃったかな? ……いや、怒ってない。一見怒ったように見せてるけど、優しい目をしてる。
先生の言いたいことがわかって恥ずかしくなった。
でも、あんな風に見つめられてると断れなかった。
「志音が俺の言う事何でも聞いてくれたら、嬉しいかな……」
俺が断れないのをわかってああ言っている。先生の方が意地悪だよね。
「……うん、わかった。いいよ、先生」
俺はもう、ドキドキしてしまって食事どころじゃなくなった。
先生と風呂……やっぱりちょっと恥ずかしい。
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