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CM
志音が俺のことを「陸也さん」と呼んでくれるようになってから数日が過ぎた──
学校では相変わらず「先生」だけど、二人の時は志音も言い間違えることなく名前で呼べるようになっていた。
俺も名前で呼ばれる擽ったさに慣れてきた頃、テレビで志音の姿を見るようになった。
前に言っていたCM……
画面の向こうで、衣装のせいか今よりぐっと幼く見える志音が飛び切り可愛い笑顔で有名若手女優と仲良く走っていた。
今日も朝起きてテレビをつけたらいきなりそのCMが目に飛び込んでくる。
朝から嫌なもん見た……
志音は可愛くていいんだ。寧ろ朝から志音が見られて嬉しいくらい。でもこの仁奈という女優。志音とお似合い過ぎて、二人で笑い合ってるシーンにどうしても嫉妬心が湧き上がって、嫌な気分になってしまうんだ。
俺は偉そうに「応援している」なんて言った。こんなのわかっていたことなんだ。志音がモデルの仕事をやってる限り、この先ずっとこういう事を思うんだろう。
学校に行っても、保健室にくる生徒達は毎日毎日このCMの話題ばかり。殆どが仁奈のファンで、志音が羨ましいだのムカつくだの……煩いし迷惑千万! こいつらがやたら来るから、志音が保健室に来づらくなっているのは明白だった。
俺のイライラもピークだった。
志音も他の生徒の手前、以前ほど保健室に来なくなった。学校では会えないから、俺が志音の家に行く事が増えた。志音も仕事があって忙しくしてるのに、俺が会いたいからって家にしょっ中押しかけるから、きっと休めてないんだろう。
我儘でごめんな。
志音は優しいから、そんな俺に文句も言わずいつも笑顔で愛してくれる。
こんなに嫉妬心の塊の俺に……
「陸也さん、まだイライラしてる?」
ベッドで俺の腕の中にいる志音が静かに言う。
「………… 」
「今日クラスの友達がさ、保健室行ったら高坂先生が珍しくイラついててちょっと怖かったって言ってたよ。先生だってそういう時もあるんじゃない? って言っておいたけど……それ、俺のせいでしょ?」
志音にまで気を遣わせてしまった。
俺の方がいい大人なのに情けない。
「……ごめんな志音。俺、今嫉妬心の塊なんだよ。目の前にちゃんとお前いてくれてるのにな。なんだろう、離れていきそうで怖いんだ……」
正直に今の俺の嫌な心を志音にぶつけると、志音は俺を優しく抱きしめてくれた。
「馬鹿な陸也さん。俺にはあなたしかいないよ? 心配しなくてもいいよ」
ふわふわと心地良い……
志音に抱きしめられて、俺は少しずつ心が柔らかくなるのを感じていた。
「たまには保健室にも来てくれよな。一日志音の顔が見られないと俺、寂しくて倒れる……」
志音はそんな俺に笑ってキスをしてくれた。
「わかったよ。陸也さんも他の生徒を追っ払っといてよね。いつも混んでるから入りにくいんだよ。俺だって陸也さんが他の奴に取られるんじゃないかって心配なんだからな!」
赤い顔して俺から目をそらす志音に思わず俺も抱きついた。
「志音も馬鹿だな……俺だって志音しかいねぇよ」
志音にちゃんと愛されている。大丈夫なんだ、と実感して、俺は心地良く眠りについた。
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